「メディア接触の新潮流...『ニュース回避傾向』が強い層の特徴とは?」大森翔子

2024.04.01
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<大規模世論調査「スマートニュース・メディア価値観全国調査」が明らかにした日本の「分断」。連載第5弾では、SNSを中心にメディア接触する層の特徴を、法政大学社会学部専任講師・大森翔子氏が解説する>(ニューズウィーク日本版より転載)

 

大森翔子(おおもりしょうこ) 法政大学社会学部専任講師

1993年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。2023年度より現職。専門は政治コミュニケーション・政治行動論。著書に『メディア変革期の政治コミュニケーション』(勁草書房、2023年)。


2021年、総務省「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」は、平日におけるインターネット平均利用時間がテレビの平均利用時間を上回ったことを報告した。さらに、2023年度の同報告書では、休日におけるインターネット平均利用時間も上回ったことが報告されている。

インターネット利用率の向上、そして近年におけるOTT(オーバー・ザ・トップ [Over The Top]:インターネットを介して提供されるメディアサービス)など各種インターネットサービスの伸長により、人々のメディア環境は「インターネット中心」のものになりつつある。それでは、情報接触の選択肢が爆発的に増えた今日において、日本における人々のメディア接触環境はどのような状況にあるのか。メディア接触に関連する質問を豊富に聴取した「スマートニュース・メディア価値観全国調査(SmartNews Media, Politics, and Public Opinion Survey)」(以下、SMPP調査)のデータから読み解いてみよう。

人々のメディア接触状況の現在:メディア情報環境の差異

SMPP調査では、人々のメディア接触に関して「新聞」、「テレビ」、「インターネット」メディアそれぞれについて、「あなたが、ふだんよく読む/見る」媒体を質問し、複数回答形式でデータを得た。本稿では、この豊富な回答項目のデータを生かし、人々のメディア接触環境の差異──メディア接触パターン──を見出すことにしたい。

人々のメディア接触のパターンを明らかにするため、「潜在クラス分析」という統計分析の手法を使い分析した結果を紹介する。今回の分析では、5つのパターン(以降「クラス」と呼ぶ)が析出された。下の図では、解釈しやすいように各クラスにおける各メディア媒体(新聞/ハードニュース/ソフトニュース/ニュースサイト・アプリ/SNS/無料動画/有料動画/掲示板)への接触回数の予測値を算出したものを示す。

 

SMPP調査(郵送)における回答者のメディア接触パターン

 

析出されたクラスを説明すると、クラス1に所属する人々は新聞・テレビ系(ハード・ソフトニュース)への接触は多く、インターネットメディアへの接触率はかなり低い。

クラス2に所属する人々は、クラス1同様に新聞・テレビ系(ハード・ソフトニュース)への接触が多く、加えてニュースサイト・アプリへの接触率も高いグループである。この2グループは、伝統メディアへの接触を軸にしていると解釈できそうだ。

クラス3は新聞・テレビ系、インターネットメディア、いずれの接触も有しているが、どれも「高い」接触率というわけではないグループである。

特に注目したいのは、クラス4と5である。クラス4に所属する人々は、SNSへの接触率が最も高いが、新聞・テレビ系への接触も行うグループである。一方、クラス5に所属する人々は、クラス4と同様にSNSへの接触率が最も高いが、新聞・テレビ系(ハード・ソフトニュース)への接触率はかなり低い。

つまり、SMPP調査データから分析をした人々のメディア接触パターンは、伝統メディア中心型・インターネットメディア中心型に分けることができるが、伝統メディア中心型でも、クラス2所属者のようにニュースサイト・アプリへの接触率が高い人々が存在する。さらに、クラス4・5にようにインターネットメディアを中心的に接触する人々においても、パターンは細分化されているのである。

メディア情報環境の差異と「ニュース回避傾向」

さて、このように異なるメディア環境に身を置くことと、情報接触に対する意識に関連はあるのだろうか。最後の分析として、上記のメディア接触パターンと「ニュース回避傾向」の関連性に関する分析結果を紹介したい。ニュース回避傾向(News avoidance)は、市民がニュースを避けて情報接触することを指し、本調査では「できることならニュースを見ずに過ごしたい」という質問で測定された。

 

SMPP調査(郵送)における「ニュース回避傾向」と所属クラスの関係

 

上の図は、ニュース回避傾向(値が大きいほど、ニュース回避傾向が強い)を従属変数とし、独立変数として各所属クラスのダミー変数を投入し推定した回帰分析の結果である(どのメディア接触質問にも「接触していない」とした回答者をクラス0と区別し、また、クラス3所属ダミーが比較基準になっている)。係数が統計的に有意であったのは、クラス2とクラス5の所属者である。

クラス2グループに所属する人は、特にテレビ系メディアへの接触率が高く、新聞・ネットニュースへの接触率も高い。このような人々は、ニュース回避傾向が低い。注目すべきは 、クラス5の所属者である。SNSへの接触率が高いが、新聞・テレビ系(ハード・ソフトニュース)への接触率がかなり低いパターンを持つクラス5の所属者は、統計的有意にニュース回避傾向が高いことがわかる。

本稿では、SMPP調査から、人々のメディア接触状況とメディア利用に関連する意識を分析・検討した。主要な結果として、人々のメディア情報環境は、インターネット中心型の接触形態においても、伝統メディアへの接触を残すタイプとそうでないタイプと細分化されること、ニュース回避傾向はSNSを中心に接触し、伝統メディアへの接触率が極めて低いグループで特に高いことを確認した。

情報環境の多様化によってニュースの入手可能性は高まっているのにもかかわらず、ニュース回避傾向が見られることは、パーソナライズ化が進む情報環境において、民主主義に参加する市民の「共通の情報基盤」が失われつつあることを示唆しているのではないだろうか。このような「人々の生きているメディア環境の差異」が分断に関連するものであるのか、今後さらに検討が必要である。

■SMPP調査・第1回概要

(2024年2月9日(金)17時00分掲載 ニューズウィーク日本版より転載)

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