2023年3月、第1回スマートニュース・メディア価値観全国調査(SMPP調査)が実施されました。今後10年にわたって、2年ごとに、日本人の政治、社会に対する意識や価値観、メディア接触との関係などを調査していきます。スマートニュース メディア研究所では、研究所のウェブサイトで随時、調査によって明らかになった点を項目ごとにリポート形式で報告していきます。
できることならニュースを避けたい、と思っている傾向(ニュース回避傾向)のある人の割合や、その人たちにどのような傾向があるかについて分析しました。(スマートニュース メディア研究所)
主要なFindings
・ニュース回避傾向がある人は全体の8%
・若年層ほどニュース回避傾向が強い
・Yahoo!ニュースやLINE NEWSなどのニュースアグリゲーター*は、回避傾向のある人にも頻繁に利用されている
・ニュース回避傾向がある人の6割が、マスメディアを信頼しておらず、ニュースを楽しめてもいない
*様々な媒体から出されている記事を一か所にまとめて表示するアプリやウェブサイトのこと
スマホとソーシャルメディアの普及によって、あらゆる情報が絶え間なく手元に届くようになった。注目を集める情報が価値を持つとされる「アテンション・エコノミー」のもと、過激・煽動的なニュースが増え、生成AIの登場は偽・誤情報の生産を一層容易にしている。
このような変化を受け、オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所は、人々がニュースを回避している、あるいは少なくとも特定のテーマについてはニュースを見ないように避けているのではないかとの想定のもと、2017年から「ニュース回避(news avoidance)」に関する国際比較調査を行っている。
報告書「ロイター・デジタルニュースリポート2022」によると、日本におけるニュース回避者の割合は他国と比べると少ないものの、2019年では11%と、2017年の6%から約2倍に増加している。また、2022年では14%と少しずつだが増加している。
SMPP調査では、「できることならニュースを見ずに過ごしたい」か、という設問でニュース回避傾向を測った。「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と回答した人は全体の8%にとどまり、「あてはまらない」「どちらかといえばあてはまらない」と回答した人が65%を占めた。問いは異なるものの、割合としては「ロイター・デジタルニュースリポート」とおおむね類似した結果と言えるだろう。
ニュース回避傾向のある人々は、どのような特徴があるのだろうか。最も顕著な特徴が現れたのが、年代別の分析である(図3)。年代別にニュース回避傾向がある人の割合を調べたところ、若年層ほどニュース回避傾向があり、特に20代以下では16%にニュース回避傾向があることがわかった。
また、これに性別の軸を加えて分析したものが図4だ。全体ではニュース回避傾向のある男女はともに8%で、顕著な性差はなかった。ニュース回避傾向がある人が最も多かったのは「20代以下・男性」(16%)、「30代・女性」(15%)、「20代以下・女性」(15%)だった。逆にニュース回避傾向が最も少なかったのは「60代・男性」(79%)、「70代以上・女性」(77%)、「60代・女性」(76%)だった。
「ロイター・デジタルニュースリポート」の2022年調査に基づくNHKの報告書でも、24歳以下の日本人男性におけるニュース回避傾向の強さが指摘されている。
続いて、ニュース回避傾向のある人のメディア利用について分析していく。ニュース回避傾向のある人は、本当にニュースに接触をしていないのだろうか。
まず、新聞とテレビの利用状況を調べた。NHKのニュースを「よく見る」と回答した人の割合は、ニュース回避傾向がある人で28%、全体で46%だった。民放のニュースを「よく見る」と回答した人の割合は、ニュース回避傾向がある人で36%、全体で59%だった。
一方、新聞を「よく読む」と答えた人は、ニュース回避傾向がある人で41%、全体で59%となった(図5・「新聞をよまない」と答えた人を除いた数字の合計であり、紙やデジタルを通じて新聞を読んだりしている人の全体を指す)。
新聞をよく読む人の割合が、テレビのニュース番組をよく見る人の割合よりも高いのが特徴的である。この設問では、新聞は紙に限らず、オンラインも含んでいるため、ニュースアグリゲーターやSNSなどから閲覧・共有されやすいことが要因の一つと考えられる。
続いて、インターネット上のニュースアグリゲーターの利用について調査した(図6)。Yahoo!ニュースを週4日以上利用する人は全体の41%で、アグリゲーターとしては最も使われているサービスだった。ニュース回避傾向がある人でも34%の人が利用している。
LINE NEWSを週4日以上利用する人は、全体では20%だったのに対し、ニュース回避傾向がある人では25%となった。ニュース回避傾向がある人に、より利用される傾向にあった。
放送局や新聞社・雑誌社が提供するニュースサイトを週4日以上利用すると答えた人は、全体でも14%、ニュース回避傾向がある人では8%だった。
ニュース回避傾向がある人でも、完全にニュースから隔絶されているわけではないことがわかった。
では、なぜニュースを回避するのだろうか?
ロイタージャーナリズム研究所の2022年調査では、日本人がニュースを回避する理由として「政治や新型コロナなどのニュースが多すぎる」が27%、「信頼できない/偏向している」が18%、「時間がない」が17%、「気分に悪影響がある」が17%、「情報で自分が何かできると思わない」が14%、「昨今のニュースの量に辟易している」の12%などが挙がった。
本レポートでは、SMPP調査設問である「ニュースを楽しめているか」「マスメディアを信頼しているか」に注目する。
ニュース回避傾向のある人の61%が「ニュースを見ても楽しめない」に対して、「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と答えた。同様の回答は、回避傾向のない人では12%にとどまり、大きな差が見られた。(図7)。全体でも「ニュースを見ても楽しめない」と答えた人は2割にのぼった。
特にニュースを楽しめないと強く認識している(「ニュースを見ても楽しめない」に対して「あてはまる」と回答している)人は、ニュース回避傾向のない人ではわずか3%にとどまるものの、回避傾向のある人では31%にのぼった。
ニュース回避傾向がある人は、マスメディアに対して信頼を置いているのだろうか。「マスメディアを信頼する」(とても信頼している、まあ信頼している)と答えた人の割合は、ニュース回避傾向がない人では74%だった一方、ニュース回避傾向がある人では41%にとどまった。また、マスメディアを「まったく信頼していない」とする人の割合は、回避傾向がある人では19%、回避傾向がない人では3%と、大きく差が開いた(図8)。
調査時期 | 2023年3月 |
実施方式 | 18歳-79歳の有権者を対象に、郵送とオンライン(Web調査)の2方式で実施 |
郵送調査 | 日本国内に居住する18歳から79歳の男女を調査対象とし、日本リサーチセンターが管理するトラストパネルの登録者から、2020年国勢調査の人口を基準として、地域・性別・年代による層化抽出を実施。初期標本の4460に対して回収数は1901(回収率は42.6%)。3月1日に調査票の入った封筒を発送、3月22日迄に到着した回答を有効とした |
Web調査 | 楽天インサイトが管理する生活意識データパネル登録者に対して調査を実施。配信地域は日本全国、標本規模は2000。なお、性別・年齢(18-19歳/20代/30代/40代/50代/60代/70代)に基づく割り付けを行っており、男女別に18-19歳は34、それ以外は年代毎に161を回収数として設定した。調査への参加を求める電子メールは3月9日に配信され、3月11日までに予定された数の回収が行われた(回収数2000、回収率100%) |
*本レポートでは、郵送調査結果を分析に用いた