「ニュース砂漠と幽霊新聞 ローカルニュースは生き残るか?」(抄訳)

2021.04.12
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NEWS DESERTS AND GHOST NEWSPAPERS: WILL LOCAL NEWS SURVIVE?

米国でローカルニュースが衰退し、「ニュース砂漠」が広がっています。その現状や、構造的な問題、住民に与える影響などを明らかにした「ニュース砂漠と幽霊新聞 ローカルニュースは生き残るか?」は、メディア界などに大きな波紋を投げかけました。日本語への抄訳をご紹介します。

執筆者であるアバナシー・ノースカロライナ大学教授には、この報告書を執筆するに至ったローカルジャーナリズムへの思いや、新型コロナウィルス感染拡大の新聞業界への影響、ローカルニュースを救うための今後の課題などについて、NY在住のジャーナリスト、津山恵子氏がインタビューを行いました。その際の記事(消えていく地方紙、米国に何が起きているのか~ペニー・アバナシー教授インタビュー)も、あわせてご覧ください。

 

ニュース砂漠と幽霊新聞
ローカルニュースは生き残るか?(抄訳)

報告書原文リンク:NEWS DESERTS AND GHOST NEWSPAPERS: WILL LOCAL NEWS SURVIVE?

 

ペニー・アバナシー(Penny Abernathy)
ノースカロライナ州立大学チャペルヒル校教授。ジャーナリスト歴15年を経て、ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルなどで経営にも携わった。また、学者に転じたあとは、ローカル・ジャーナリズムを支援するため、多くのレポートを発表してきた。
ノースカロライナ州立大学は、米国の州立大学の中で最古の歴史を持ち、アイビーリーグと同等の教育が受けられる公立大学群、パブリック・アイビー8校のうちの1校に認定された名門公立大学の1つである。

序文

I 2020年ローカルニュースを囲む状況 変遷と衰退

新聞の消滅
ニュース砂漠に住む
読者とジャーナリストの減少
新聞の将来
新しいメディアの巨人たち
巨人らはさらに巨大化する
長年の議論に新たな緊急性
起業家精神あふれるメディアの支持者とベンチャー

II 未来のニュースが置かれる状況:変容....復活?

報道機関の使命:エスニック・メディアの課題と機会
ビジネスモデル:公共放送の役割の拡大
技術力:編集者としてのアルゴリズム
政策と規制:現状
進むべき道:ローカル・ニュース改革

序文

新型コロナウイルスの世界的感染拡大と経済閉鎖は、ローカルジャーナリズムのあるべき健全性に大きな亀裂を残した。この分水嶺ともなる2020年に、市民、政策立案者、業界のリーダーらは、ローカルニュースが置かれた状況を変える将来への道筋をつけていくだろう。

新型コロナウイルスの感染拡大は発生からわずか数カ月で、過去20年間に起きていたローカルニュースに対するダメージを大幅に加速させている。一時解雇、賃金カット、解雇などは、何千人ものジャーナリストに影響を及ぼしている。数十に上る新聞がすでに廃刊した。年末までに数十と言わず数百の新聞がそうなる恐れもある。

転機となる今こそ、ローカルニュースが置かれている状況を記録しておく時ではないか。
それによって、ニュース砂漠が増えている状況に至っている構造的な問題に対処し始めることができる。

200年もの間、米国のローカルジャーナリズムを支えてきた利益追及型のビジネスモデルは、わずか20年のうちに技術や経済環境の変化で破壊されてきた。ローカルニュース業界が失ってきたものは、新聞発行部数とジャーナリズムの数という形で知ることができる。

筆者の前回報告書「広がるニュース砂漠 (The Expanding News Desert)」をまとめた2018年以降でさえ、以下のことが起きた。

・300の新聞が廃刊され、6千人ものジャーナリストが消え、新聞発行部数は約500万部減少した。

・未上場の投資会社やヘッジファンドが、上場している新聞大手を買収し、合従連衡が進んだ。こうした経営者らは、ジャーナリズムが市民の要請に応じて果たす義務よりも、株主へのリターンを優先している。

・テレビ局や新たなデジタルメディアなど他のメディアが、ローカルジャーナリズムの穴埋めをしようと努力してはいるものの、特に経済的に厳しい地域では、ニュース砂漠の拡大を止めることができずにいる。2019年には、全米で80以上のローカルニュースサイトが開設されたが、ほぼ同数のサイトが閉鎖された。

新型コロナウイルスの感染拡大は、この衰退に拍車をかけた。2020年4―5月に、少なくとも30の新聞が廃刊したか買収された。数十の新聞が宅配からデジタルオンリーに転換し、伝統的メディアとデジタルメディアの数千人のジャーナリストが、一時解雇あるいは解雇された。まだ生き残っている、あるいは新規参入のメディアを新型コロナウイルスが破壊し、「絶滅レベルの一大事」になるのではないか、そして、米国のローカルニュースのエコシステムの崩壊につながるのではないか、という懸念が浮上している。

注)抄訳で紹介する図表は、同校による調査に基づいたデータベースを使って作成。

【2020年ローカルニュースを囲む状況 変遷と衰退】

 新聞の消滅

ポイント
①米国は2004年以来、2100の新聞を失った。日刊紙が70紙、週刊紙・非日刊紙2千紙以上が含まれる。

②2004年に約9千紙あった新聞は、2019年末には6,700紙となった。

③現在、米国にある3,143の郡、あるいはそれに相当する行政区のうち200以上に新聞がなく、重要な問題について信頼できる、あるいは総合的な情報源がない状態である。また、半分の郡で新聞が一紙しかなく、3分の2の郡で日刊紙がない。

④新聞を失った多くのコミュニティは、最も脆弱で不安定な地域であり、経済的に孤立している。

図1)ローカルニュースのエコシステム
全国紙 (National Newspapers)は、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、USAトゥデーの3紙。都市や複数の地域をカバーする新聞 (Metro & Regionals)が157紙。英語以外の新聞、小中規模の日刊紙、非日刊紙を含むコミュニティ新聞 (Community Newspapers)が6,576紙あるという構造。

こうしたローカル新聞業界の衰退の中、ニュースのエコシステムも危機にさらされている。全国紙や一つの州全体をカバーする大手紙は歴史的に、後に全国、あるいは州レベルの見出しに発展するニュースでも、小規模な地元紙の報道に依存してきた。地元紙が、銃撃事件やローカルのデモを報道すると、大手紙がそれを取り上げてより多くの人に知らせてきた。地元紙が消滅すると、このニュースのエコシステムが損なわれることになる。

図2)新聞が消えた地域はどこか?
青が日刊紙、オレンジが週刊紙。2004年以来2,100紙以上が消えた。

 ニュース砂漠に住む

図3)ニュース砂漠の広がり。赤が、地元紙がない200の郡。オレンジが、地元紙が1紙という1,540の郡。

ブルッキングス研究所によると、2020年4月初旬、新型コロナウイルスの感染ケースを報告した2,485郡のうち、57%に当たる郡で地元紙がないか、あるいは1紙しかないという状態だった。研究所の報告は「全米に新型コロナウイルスが広がっていく中、明らかに重要なニュースが報道されないままになるだろう」としている。特に辺境で、医療施設が都市部に比べて貧弱であり、新型コロナウイルスに感染する高いリスクにさらされている住民がいる地域が報道されずに取り残されている。

本報告書は、ニュース砂漠を以下のように定義した。「草の根レベルの民主主義を育む、信頼できる包括的なニュースや情報について、住民が極めて限定されたアクセスしか持たない地方か郊外のコミュニティ」。

地元紙がないか1紙しかない郡の住民は、平均的な米国人よりもはるかに貧しく、高齢で教育レベルも低い。住民の18%が、貧困の中に生活しているが、全米平均は12%である。地元紙がない郡に住む半数の人が、“新鮮な果物や野菜、健康に良い自然食品が手に入らない”「フード砂漠」に住んでいる。ケーブルテレビの契約料や新聞の購読料を払う余裕がなく、コミュニティが直面する重要な問題について知ることがないため、選挙で投票に行かない傾向がある。

この結果、米国においてニュース砂漠は、都市部でメディアが豊富にあるコミュニティと、ニュースに接する機会を奪われてしまった地域との間に、文化的、経済的、政治的分断を生み出している。

図4)貧困率、平均年収、平均年齢、大卒の割合におけるニュース砂漠の住民と米国平均の比較。

 読者とジャーナリストの減少

ポイント
① 過去15年間で、新聞読者とジャーナリストの半数は消滅。2004年から2019年までに新聞発行部数は約5500万部、ジャーナリストは36千人減少した。

② 読者とジャーナリストの喪失は、20世期のビジネスモデルが崩壊したことに起因

③ 新聞社は利益を確保するため、不採算の新聞を廃刊とするか、特に辺境での印刷物の配達を止めるか、ジャーナリストを解雇するなどコスト削減を実施。

図5)発行部数の減少。2004年に1億2200万部あった発行部数は、2019年に6800万部にまで減少した。濃いグリーンが日刊紙で、薄いグリーンが非日刊紙。

読者やジャーナリストの激減は、長期的財務の観点から、デジタル時代の新聞の生存可能性に疑問を投げかける。20世紀の地域・コミュニティ新聞社では、講読料収入はほんの一部で、80-90%を広告収入に頼っていた。20世紀後半から地域の新聞社が1社独占となった地域では、その新聞社が広告主と購読者への料金を設定できるようになり、高利益を得ているものもあった。

ところが、2011年までに読者の生活習慣が変わり、新聞紙よりオンラインニュースを見るようになると、広告主もそれに追随し、これまでのビジネスモデルが崩壊する要因となった。オンラインではFacebookやGoogleが利益を得る仕組みとなっており、新聞社はデジタルビジネスモデルへのシフトに苦戦を強いられている。

図6)ニュースルーム(注:日本では編集局)の雇用者数は、2004年~19年までに50 %減少した。2004年に71,640人いたが、2019年に35,000人に落ち込んだ。

 新聞の将来

都市部の新聞や州紙はすでに、辺境への配達を削減し、編集局のスタッフも限界まで減らした上で、さらに経費削減ができる部分といえば、宅配の読者をデジタルの読者に転換させ、日々の宅配版の発行部数を減らすことである。20世紀の新聞の最盛期でさえ、ほとんどの日刊紙で利益を出しているのは、広告が増える日曜日、水曜日、木曜日と週に3日だけだった。日曜日は告知欄や求人広告が入り、水・木曜日は小売店やメーカーの買い物クーポンが挟み込みで入ったからである。

ところが、大手紙がデジタル購読者を増やすことに注力しても、主要都市部の新聞でさえ、わずか数千の購読者を獲得するだけという結果に終わっている。そこで、新聞発行者は慎重に、宅配版の発行と配達を1日ずつ減らし始めた。例えば、新聞大手マクラッチーは2019年、傘下新聞の宅配の発刊日を週に7日から6日に減らした。

図7)2010年~20年までの、新聞(印刷媒体のみ)とデジタルメディアに対する広告費の割合。2010年に新聞とデジタルメディアはほぼ同じ割合だったが、2020年(推計)ではデジタルメディアの割合が新聞の割合の約18倍となっている。

宅配日を減らすのには、従来の読者からの抵抗もあるが、成功例もある。アーカンソー州都リトルロックにある一族経営の「アーカンソー・デモクラット?ガゼット」は2019年、月曜日から土曜日をデジタル版オンリーに移行し、日曜版だけ州全域で宅配を続ける選択をした。これに先立ち、読者の研究と分析を行った上、1年半に渡り1300万ドルをかけてiPadを宅配読者のために購入・配布し、iPadを使ってより良い新聞購読のオンライン体験が得られるように、70人の“トレーナー”を読者のもとに送り込んだ。経営幹部は、月額37ドルという宅配購読料を据え置いたまま、少なくとも70%の読者がデジタルに移行すれば黒字になると試算した。同社は2019年末までに、デジタルへの移行率は80%を超え、後に100%近くになったと発表した。日曜版はいまだに、多くの広告を引き付けており黒字であるため、当面は宅配を続けるとしている。

鍵は、歴史的に依存してきた宅配の広告収入の減少を埋め合わせるために、広告主と読者の双方に向けて、デジタルとノンデジタルの商品やサービスを多様化させ、うまく組み合わせていくことである。

 新しいメディアの巨人たち

ポイント

・大手ヘッジファンドや投資会社が近年、苦境にある新聞大手を買収し、ジャーナリズムが市民の要請に応じるべき使命を蔑ろにし、業績を重んじる新しい経営理念を持ち込んだ。収益が激減する中で、こうした経営手法は、他の新聞大手にも採用されるようになり、大きな経費削減をするきっかけとなり、イノベーションへの投資は皆無という状態になっている。

・生き残っている新聞業界が急速にしぼんでいるにもかかわらず、新聞大手はかつてないほど巨大化している。2020年初頭、大手ヘッジファンドや投資会社の力を借りて上場している新聞大手同士が合併し、資金調達しやすくするメガチェーンとなって、さらに巨大化する勢いだ。

・新聞業界の大規模な合従連衡は、傘下のローカル新聞が拠点を置くコミュニティとは関係の薄い一握りの企業が、編集や経営の決断を行う方向に転換させた。

図8)新聞大手トップ10社の保有新聞数、日刊紙数、総発行部数(2019年)
社名黒字が上場している新聞大手、グリーンが上場しているコミュニティ新聞大手、紫が未上場メディアグループ

日本の通信大手ソフトバンク・グループは2017年、7千億ドル以上を運用する米フォートレス・インベストメント・グループを買収した。フォートレスは、当時36州で400紙以上を発行していた新聞最大手ゲートハウスを保有していた。ゲートハウスは2019年末までに、新聞大手2位のガネットを買収し、600紙以上を保有するまでに膨れ上がった。ゲートハウスは、旧社名を捨て、“新”ガネットとなった。

日本の企業による米国の新聞最大手の買収は、近年のドラマチックで目まぐるしい業界の変化を象徴している。一方、同じく新聞大手デジタル・ファーストを保有するヘッジファンド、オールデン・グローバル・キャピタルは、トリビューンを買収し、デジタル・ファーストに吸収した。

こうした未上場投資会社と、ニューヨーク証券取引所で株式が取引されている伝統的な新聞チェーンが組み合わさったハイブリッド新聞チェーンは、新聞業界の将来に多大な影響を与えることになるだろう。米国の日刊紙の3分の1と、全米発行部数の半分以上を占める1千以上の新聞の運命を彼らはコントロールしているためだ。

しかし、トップ企業となったガネット、リー、トリビューンの3社は2020年4月までに、新型コロナウイルスの感染拡大による経済閉鎖で収入が激減したのに対応し、解雇や賃金カットを発表した。3社は急速に落ち込む収支にテコ入れするため、政府の緊急経済対策の支援を受けようと働きかけており、さらなる解雇が続く兆しがある。

 巨人らはさらに巨大化する

新聞のオーナー数は2004年から2019年の15年間で、約4千から2,400に減少するに至るまで合従連衡が進んできた。その結果、2004年にはあったナイト・リッダー、ピュリッツァーを含む新聞大手十数社が消えた。

大手25社(総発行部数ではなく、保有新聞数による)は2004年末、全米約8900紙のうち5分の1、日刊紙では3分の1以下である1472紙を保有するに過ぎなかった。15年後になると、大手25社は、これまでに生き延びた全米約6700紙のうち3分の1を保有し、日刊紙では70%に当たる1260紙を保有している。

新聞大手の規模が巨大化するにつれ、新聞業界のオーナーシップの構造も劇的に変化した。2008年に起きた金融危機の際、当時上場していた新聞大手のオーナーは、未上場の投資・ヘッジファンドが取って代わった。彼らは、経営破綻した何百紙もの新聞を安く買収した。

2020年になり、オーナーシップの構造はさらに変容を遂げている。投資会社やヘッジファンドが保有する新聞大手が、最後に残った上場している新聞大手と合併しているためだ。2020年現在、トップ3社であるガネット/ゲートハウス、トリビューン/デジタル・ファースト、リー/BHメディアは、全米の新聞の15%に当たる990紙、日刊紙の3分の1に当たる416紙を保有している。

 長年の議論に新たな緊急性

図9)新聞大手25社は2020年現在、全米の新聞の3分の1を保有している。2004年には5分の1だった。黄色が上場大手新聞社、赤が未上場の新聞社。

20世紀の新聞のビジネスモデルが崩壊したことで、株主への義務に対し、ジャーナリズムが市民の一員として果たすべき使命をめぐる喫緊の問題が浮上している。つまり、新聞大手が巨大化するほど、地方紙は財務が優先か、ジャーナリズムが優先かという課題を1社1社が単独で考えることが困難になっている。

巨大化に関するデメリットは古い議論でもあるが、最近は新たな問題性を帯びてきた。米世論調査機関ギャラップによると、地方の報道機関に対する信頼は、より大きな全国規模の報道機関よりも高かったが、それが急速に低下してきている。また、2018年に米調査機関ピュー・リサーチ・センターが35千人を対象に調査を行ったところ、約半数の人が地方紙から受けるニュースの質が下がり、量も減っていると答えた。ところが、回答者の4分の3は、地元紙が直面している経営危機について認識していなかった。

ガネットやナイト・リッダー、マクラッチーなど新聞大手が1980年代~90年代、株式を発行し、ウォール街の投資家やアナリストの予想と期待に対応するようになった際、学者や政策立案者、ジャーナリストらが、新聞社が果たす市民としての義務について懸念を表明していた。

しかし、当時は新聞大手の企業価値も高かったので、各社は、地方紙がそのコミュニティに根を下ろすことに資金を回すことができた。印刷工場や最新の印刷機に投資し、辺境地域にも配達して発行部数を増やしていった。

上場した新聞大手は、四半期決算報告書や株主への年次報告も出していたため、政策立案者や学者、コミュニティの活動家が、ジャーナリズムについて、あるいは経営について批判することもできた。

ところが未上場の投資会社による新聞大手の乗っ取りは、透明性、信頼性、そしてジャーナリズムが一市民として果たす使命について、新たな懸念をもたらしている。ファンド系の経営をみると、買収した新聞に投資をするのではなく、経費削減によって利益を絞り出し、それを自社への運用報酬や借入金の金利支払い、株主への配当に当てている。例えば、投資ファンド、オールデン・グローバル・キャピタルは、デジタル・ファースト傘下の新聞社から得た利益を、ギリシャ国債など失敗した投資を回収するのに当てている。

新聞社の株式が取引され、オーナーが変わることで、新聞の弱体化も進む。小規模な新聞が合併吸収されると、リストラによって廃刊となる。地元紙がなくなったマーケットでは、住民はローカルな情報の信頼できるソースを失い、「ニュース砂漠」、つまりローカル報道機関のないコミュニティが増え続けている。人員削減により、かつてはきちんとした新聞が、今はその影もない「幽霊新聞」も増えている。

民主主義の仕組みに対する信頼は、草の根から始まり、新聞は歴史的に、その信頼を築くための情報を提供する重要な役割を果たしてきた。しかし、多くの新聞で、利益優先がジャーナリズムの市民として果たす使命を凌駕してしまうと、民主主義との絆は、細く弱いものになってしまう。21世紀の新聞を再生させるには、新しいビジネスモデルを築くだけでなく、ジャーナリズムが優先すべきことの確立が必要となっている。

 起業家精神あふれるメディアの支持者とベンチャー

ポイント

・さまざまな伝統的メディアやベンチャーが近年、失われたローカルニュースの補完をしようと試みている。それに挑戦しているメディアの形態としては、ローカルニュース専門のウェブサイトや多言語メディア、公共放送の報道部門、独立系の新聞社などがある。

・こうしたメディアの経営者らは、さまざまなビジネスモデルを試みている。企業や非営利法人、コミュニティがオーナーとなる形式や共同組合もある。

・多くのこうしたメディアの努力は、報われる見込みがある。しかし、ローカルの報道機関がない地域にまでビジネスを広げるには、さらなる資金調達が必要となる。

ローカルニュースの報道機関が消えた後を埋めようとするさまざまな法人の取り組みは、ファンド系などが資金を出している今日の新聞大手とは異なり、重要な役割を果たしている。目標は、20世紀の新聞のように勢いがあるローカルメディアを生み出すことだ。20世紀に発行されていた最高の新聞と同じように、日々の重要問題を浮き彫りにし、コミュニティの住民が直面する問題を解決するのを助け、経済成長と発展を支援し、コミュニティの社会的・地理的なアイデンティティを育むことだ。同報告書は、ローカルニュースのニーズを正確に把握するため、全米の525のローカルニュース専門ウェブサイト、950の多言語メディア、1400の公共放送、2400の独立系新聞を対象に調査した。

企業モデル
近年、ローカルニュース専門のウェブサイトや、多言語の報道機関が発足し、こうしたところを経営する独立系で営利目的法人のオーナーの数は増えている。独立系メディアのオーナーは、経営判断を迅速に下すため、大企業傘下の新聞経営者よりも、戦略的に柔軟に対応することができる。コミュニティの住民やビジネスのニーズの変化にも、より迅速に対応できる。しかし、ほとんどのスモールビジネスのオーナーと同様、彼らの収入は、数百万ドル以下から、数十万ドルといったところで、利幅は少ない。つまり、長期的に財務の安定を実現するには、創造性とともに、戦略的なアプローチの両方が必要である。

(1)独立系新聞社
小規模な新聞発行者らは、収入源を多角化する方法を編み出すため、特に独創的な方法を試さざるを得なかった。最も成功しているコミュニティ新聞は、収入源を増やすため積極的な努力をしている。イベントの後援、ニュースレターのメールサービスやポッドキャストのほか、地元ビジネスの広告やマーケティングのニーズに応じるため、自前のデジタル広告代理店を設立した例もある。これらの新たな事業から得た利益は、宅配であれデジタルであれ、新聞のジャーナリズムを支えるために使われている。

具体例
・ニューズ・リポーター(ノース・カロライナ州、週2回発行、発行部数10,000部)
発行人レス・ハイ氏は、地元企業のためにビデオ制作やウェブサイト作成を提供するサービスを始めた。ライフスタイルの雑誌を発刊し、デジタル購読料を設定した。利益は小幅にとどまるものの、「経済、医療、教育など、私たちの将来に影響し、クォリティ・オブ・ライフに関わる問題は豊富にある」(ハイ氏)と話している。

・EO メディア・グループ(オレゴン州)
同社は、地元にある破産手続き中だった新聞2紙を買収し、州内の他の新聞大手を上回るメディア企業となった。買収・運営資金は、住民や地域のテコ入れを支援する財団が拠出した。

・バークシャー・イーグル(マサチューセッツ州)
定年退職した判事が、住民と協力して資金を出し、新聞大手デジタル・ファーストから、地元紙3紙を買収した。編集と営業を増強し、ライフスタイルの雑誌を新たに発行するとともに、自前のデジタル広告代理店を設立した。

(2)ローカルニュース専門ウェブサイト
「サンタ・クルーズ・ローカル」(カリフォルニア州)は、新聞大手デジタル・ファースト傘下の新聞を辞めたカーラ・メイバーグ・ガズマン氏が2019年2月、最高経営責任者(CEO)兼共同創業者として立ち上げた。住民65千人の地域の公共政策に関する問題に焦点を当てたニュースサイトである。非営利法人ではなく企業として登録したため、新聞のように創業者らが選挙について意見を述べたり、特定の候補者の支持を表明することができる。

ノース・カロライナ大学のデータベースにある525のローカルニュースサイトのうち4分の3が、地方自治体の定例会議など極めてローカルなニュースに重点を置いている。

多くが、ローカル情報が必要なことに注目し、ガズマン氏のように経験と情熱があるジャーナリストによって設立された。2008年から新聞社のジャーナリストは36千人減少したが、ローカルニュース専門ウェブサイトに雇用されたジャーナリストは10千 人に上る。

デューク大学の調査によると、オンラインオンリーの報道機関は、100都市(人口2千~30万人規模)において報道機関全体が1週間に出す16千本の記事のうち10%と、メディア業界全体では比較的小さな部分しか占めていない。しかし、ローカルニュース専門サイトから発信された80%の記事が、米連邦通信委員会(FCC)が定めた教育、医療、環境、地方政府など重要な情報のニーズに応じていることが分かった。

しかし、ローカルニュース専門サイトの90%が、都市圏に拠点を置いている。200ある地元紙を失った郡では、わずか3つのサイトしか運営されていない。

図10)オレンジの円がローカルニュース専門ウェブサイトがある地域。米国では2100の新聞が消えたものの、そこを補完するローカルあるいは州の専門ニュースサイトはわずか500である。

非営利法人
非営利法人メディアの代表例では、2007年設立のプロパブリカ、2009年設立のテキサス・トリビューンがある。両社とも資金が豊富な個人の篤志家や財団に支援されており、長期的な安定を維持するため、全国レベルあるいは広域向けのニュースを発信するサイトを運営している。

インスティテュート・フォー・ノンプロフィット・ニューズ(INN、会員250社)によると、2008年から、非営利目的の編集部門が月に一つの割合で立ち上がっている。会員のサイトの半数が、州レベルあるいは、地方レベルのニュースをカバーし、ほとんどのサイトが調査報道あるいは解説に力を入れたジャーナリズムを提供するなど市民として果たす使命を追求している。2018年時点、80%のサイトで、少なくとも1人の調査報道担当ジャーナリストがいる。

非営利の報道機関が、ニュース砂漠になるリスクにさらされている経済的に困難なコミュニティにおいて、サイトを支えて行くには、資金が必要とされている。ハーバード大ケネディスクールのショーレンスタイン・センターの2018年の報告によると、全米あるいはコミュニティレベルにある財団大手は、新聞や広告収入主体のメディアがどれほど人員を失い、問題がどこにあるのかを認識していなかった。このため、州レベルあるいは地方にある報道機関は、6500以上の財団から出ていたジャーナリズム関連の助成金である計18億ドルのうち、わずか5%に当たる8千万ドルしか得ていなかった。

INNによると、会員の230サイトが計3千人を雇用しており、そのうち2千人がジャーナリストである。INNの目標は、2030年までにジャーナリストの数を少なくとも20千人にまで増強することだ。

まとめ  教訓:2004年から2019年
2004年以来、地元紙を失った2,100のコミュニティのうち約1,800が、地元の学校のレベルや感染症の拡大といった非常にローカルな問題についてカバーしている報道機関が近くにさえないという状況である。教育委員会の会合や地方自治体の首長になろうとする候補者などを取材するジャーナリストがいなければ、何千もある小中規模のコミュニティの住民は、「ニュース砂漠」に住んでいることになる。彼らは、現在あるいは将来のクオリティ・オブ・ライフを決する重要な問題について、信頼できる情報が得られなくなってしまう。

地元紙が消える一方、全米の都市圏や州全域をカバーする大手日刊紙でも同時に、解雇の波が吹き荒れ、報道や編集のスタッフが息切れしている。

2019年において、ローカルニュースのエコシステムは、変貌したと同時に縮小した。今日のローカルニュースに対する需要、かつ重要なニーズが、供給を上回っている。

しかしながら、劇的に衰えた状況にあっても、生き残った地方紙は、ローカルニュースや情報の重要な入手先であり続けている。教育や環境、コミュニティの公衆衛生や安全といった、なくてはならない情報を提供するローカル記事の半分以上が、地方紙によってもたらされている。これは、体力がある地方紙や、デジタルオンリーの報道機関、多言語メディアや公共放送などを支えていく公共政策や慈善事業が重要であることを物語っている。ローカルニュースのエコシステムに活気を与え、再生させる、そして十分なサービスを受けていないコミュニティにおける情報のニーズに対処するには、資金を急増させることとともに、ジャーナリズムが市民として果たす使命に再度集中することが必要とされる。

II 未来のニュースが置かれる状況:変容....復活?

ローカルニュースの生態系はしばしば非常に壊れやすい。2020年の経済的危機からどこが生き残り、今後数年で繁栄するのか見極めるには時期尚早であるが、ローカルニュースが直面する根本的な課題と機会を見極めることは難しくない。この国全体で広がるニュース砂漠の増加を阻止するには、ローカルジャーナリズムの使命とビジネスモデルを再考し、テクノロジーを活用して新しい機能を開発し、ニュース砂漠をもたらした格差に対処する新しい政策を作り上げる必要がある。

米国の人口動態は変化しており、2030年代に、マイノリティ(アフリカ系、ヒスパニック系、ネイティブアメリカン、アジア系)は、ヨーロッパ系白人の数を超えるとされる。伝統的なローカルニュース(地方新聞、テレビ局、ラジオ局、新興のデジタル放送局)は、しばしばマイノリティ層を見過ごし、彼らの権利を剥奪してきた。一方、マイノリティは、自ら所有するメディアに頼ってきた。マイノリティがマジョリティになると、主流の報道機関とエスニックメディアとのジャーナリズムの使命はどのように変化し、潜在的に収斂するのであろうか。

ニュース砂漠は、全米に容赦なく広がっている。最も危険にさらされているのは、経済的に困窮し、デジタル時代に取り残されたコミュニティである。これらのコミュニティの孤立は、この国のさらなる二極化のリスクにつながる。こうしたトレンドを逆転させるには、さまざまなビジネスモデルの展開が必要になる。ローカルニュースの生態系を再活性化するには、大企業や中小企業、ニュース消費者、金融業者、慈善家、納税者からのローカルニュースへの資金を劇的に増やす必要がある。このセクションは、我々が直面する課題と機会を検証することで、未来を予測する。

 報道機関の使命:エスニックメディアの課題と機会

多くの主要報道機関が姿を消すにつれて、一部の地域では、さまざまなエスニックグループを対象とした新しいメディアが急増している。米国勢調査局は、 2045年までに、主にアフリカ系米国人、ネイティブアメリカン、アジア系米国人、ラテン系米国人で構成される現在のマイノリティの人口が非ヒスパニック系白人の数を上回ると予測しており、今後数十年のエスニックメディアの報道使命の拡大が見込まれる。

エスニックメディアでは、学校や地方政治など日常的に重要な問題だけでなく、地域社会に影響を与える特定の健康問題なども取り上げている。また、エスニックメディアのニュース報道は、主流派への対向的な記述となっている。 「白人紙が客観的であるとは考えておらず、よって、アフリカ系米国人紙も客観的であることを意図してはいなかった」と、コロンビア大学ジャーナリズム大学院のアフリカ系米国人として初の終身教員となったフィリス・ガーランド氏は1999年に話している。

ノースカロライナ州立大ではエスニックニュース報道を951社特定し、エスニックメディアの現状を分析した。

・エスニックメディアが多いのはカルフォルニア(142)、次いで、テキサス(96)、ニューヨーク(91)、フロリダ(76)の各州である。
・エスニックメディアの圧倒的多数は都市部にある。
・エスニックニュースの多くはラテン・ヒスパニック系コミュニティを対象としている。ピュー・リサーチ・センターの調査では、ラテン・ヒスパニック系の報道機関として新聞224、テレビ局173、ラジオ局27を特定している。
・アフリカ系米国系の報道機関は、新聞が243、ラジオ局28、テレビ局7である。
・ノースカロライナ州立大データベースによると、アジア系米国人コミュニティ対象の報道機関が約35、ネイティブアメリカン対象が10、ポーランド系、ドイツ系、イタリア系、ロシア系、その他対象の報道機関は、67である。
・エスニックメディアは、Entravision Communications、NBC Universal、Univisionなどのいくつかの複合企業を除いて、ほとんどが独立した企業である。
・エスニックメディアの報道は、ほとんどの場合、対象読者の言語(スペイン語、中国語、ベトナム語)で提供される。


図11) エスニックメディアの所在地。約1千の機関があり、オレンジがアフリカ系米国、黄色がアフリカ系アメリカ/ヒスパニック系、赤がラテン・ヒスパニック系、紫がその他を示す。

エスニックメディアのビジネス
エスニックメディアの主要な配信方法は紙とテレビであるものの、デジタルおよびモバイル・プラットフォームが急速に増えている。多くの場合、主な収入源は広告で、中小企業の広告主に依存していることもあり、危機的な経済状況となっている。しかし、一部の広告主からは、英字紙がリーチしない顧客層を有するため、重視される面もある。

デジタル広告の収益は業界全体で増加しているが、報道のデジタル化には固有の問題がある。エスニックメディアの収益にはあまり寄与しておらず、一部の識者は、デジタル広告収入の85%をFacebookとGoogleが得ているとしている。さらに、デジタル広告は印刷広告よりもはるかに安い単価で売られている。

ローカルニュースメディアは、収益を得るためにペイウォール、またはデジタル購読料に注目している。しかし、一部の層を対象とする専門紙を除いて、購読料は十分な収益をもたらさず、加えて、所得が低い読者層を多く抱えるエスニックメディアにとってはハードルが高い。 2018年の個人の所得平均は、アフリカ系米国人が31,000ドル、ヒスパニック系が28,000ドルであり、白人の非ヒスパニック系の44,803ドルと比べると少ない。さらに、人々はソーシャルメディアで無料で情報を入手することに慣れている。

一部のエスニックメディアは、経営支援として大企業や慈善団体、地方政府からの資金提供に関心を寄せているが、ハーバード大学ショーレンスタイン・センターによると、2010年から2015年にかけて、慈善団体がローカルメディアに提供した資金のうち、エスニックメディアは2.1%しか受け取っていないという。また、そうした資金への依存は、報道機関がスポンサーから恩義を受けることにもなる。エスニックメディアの中には、主流のメディアの「関連出版物」として資金提供を受けたり、他のメディアとの合併や協定を締結するものもある。

必然的に、エスニックメディアは、ビジネスモデルにイベントプランニングを追加するなど、収入を生み出すための新しい方法を模索している。デジタル化の拡大は、イノベーションをもたらす他の機会も生み出している。視聴者を英語話者に拡大するために、ラテン系のポッドキャストであるRadio Ambulanteは、これを聴きながらスペイン語を学べるアプリLupaを作成した。このアプリは購読料を通じて収益を生み出し、スペイン語を話すリスナーとスペイン語を話さないリスナーをつなぐ機会を収益化している。

エスニックメディアの価値:過去、現在、そして未来
スペイン語のメディアは、アメリカ建国前に号外として発行されたものがあり、最初のスペイン語の新聞は、1808年にEl Misisipi、次いで1809年にEl Mensajero Luisianesが発行された。最初のアフリカ系米国人の新聞であるFreedom’s Journalは、1827年に創刊された。アフリカ系米国人のメディアは、奴隷制廃止運動と、南北戦争後の再建期、アフリカ系米国人の大移動、二度の大戦と公民権運動において強力な発信を続けた。

エスニックメディアは、エスニックグループを市民に可視化することができる。Tundra Timesは、1960年代に政府が狩猟場を破壊するという計画に対して、アラスカの先住民を擁護するスタンスをとった。歴史家のエリザベス・ジェームズ氏は、「Tundra Times創刊後、先住民の声は無視できなくなった。」と指摘している。

エスニックメディアは、対象の読者層だけでなく、コミュニティ全体に貢献する。 Journal of Ethnic and Migration Studiesに掲載されたある研究によると、エスニックメディアは、主要新聞にはない視点やストーリーを掲載し、「多民族の公共圏」を作り出しているという。

マイノリティの人口増加により、エスニックメディアがより持続的な成功の可能性も増す。ただし、それは、従来の新聞、テレビ、ラジオよりもデジタル環境の中にある可能性が大きい。ピュー・リサーチ・センターによると、平日にインターネットをニュース源とするヒスパニック系は、2006年には37%であったが、2016年には74%に上昇したと指摘している。米国のヒスパニック系成人の4分の1以上を占めるミレニアル世代には「新聞は読まないが、スマートフォンなどを通じて記事を読ませることはできる」とシャーロット・ポスト(ノースカロライナ州)の発行人兼最高経営責任者(CEO)のジェラルド・ジョンソン氏は言う。

 ビジネスモデル:公共放送の役割の拡大


図12)全米に1400ある公共放送の約半数がオリジナルコンテンツを制作している

50年以上にわたり、税金で支えられてきた1400のテレビ局とラジオ局は、人々を楽しませ、教養を与え、情報を与えてきた。 ノースカロライナ州立大の研究者がまとめたデータをもとに、元ナイトライダー社ワシントン特派員でブルームバーグニュース編集者であるビル・アーサー氏は、公共放送がニュース砂漠問題に介入し、その住民にニュース報道を提供する可能性を探る。

地方紙がなくなったら、その役割を何が担うのであろうか。代替案の1つは公共放送であろう。「公共放送局は地元で管理・運営されているため、ニュース砂漠拡大に対処するのに最適である」と、アメリカ公共放送協会(CPB)上級副社長であるケーシー・メリット氏はPBSに2020年3月のインタビューで語った。非営利のニュースサービスCurrentの理事であるジュリー・ドリジン氏は、公共放送が「ニュース砂漠問題に有効」であるが、「新聞の消滅によって生じた空白を埋めることができるだろうかといえば、答えはノーだ。ただ、公共放送は最善を尽くしている」という。

現時点で、公共放送はローカルと州のニュースを提供するのに適している。特に高速インターネットへのアクセスが難しい地域には重要である。放送局はローカル地域で運用されるため、放送局のあるコミュニティ固有の情報ニーズを満たす柔軟性があるが、一方で、放送局は利用可能な資金や人員配置、情報提供について数十年前に定められた連邦法の規定などの制約を受けている。

公共放送がどこで、どのように、ローカルニュースを提供し得るかを理解するために、ノースカロライナ州立大の研究者は、約1100のラジオ局と350のテレビ局を含む1400を超える報道機関のデータを収集した。そのうち、約半数(608)は、州またはローカルニュースに焦点を合わせたニュース番組を含むオリジナルコンテンツを制作していた。

公共放送番組に対する資金提供
公共放送システムは、アメリカ公共放送協会(CPB)が中心となっている。CPBは、税金によって運用される非営利組織であり、公共ラジオ局や公共テレビ局に対して資金提供するが、自前の局を持たず番組は制作しない。CPBは、2019年度に4億4500万ドルの運営予算のうち、4億ドル強を公共ラジオ・テレビ局に割り当てた。

ペンシルベニア大学アネンバーグコミュニケーション大学院教授のビクター・ピッカード氏は、ハーバード・ビジネス・レビュー誌で、「米連邦政府の公共放送メディアへの支出は他の民主主義国家よりもはるかに少なく、1人あたり年間約1.35ドルであるが、日本は1人あたり40ドル以上、英国は約100ドル、ノルウェーは176ドル以上である」と述べた。CPBの助成金は、地方局にとって特に重要で、 平均的な地方局の収入の19%を占めている。州の助成金も選択肢にはあるが、50州のうち14州には制度がなく、27州では住民1人当たり2ドル以下、6州で1人当たり2から4ドル、3州で4ドル以上となっている。

ノースカロライナ州立大データベースにある1136の公共ラジオ局と350の公共テレビ局のうち、約1千局がNPR、300以上のテレビ局がPBSと提携している。 APMは約50の公共ラジオ局を所有し、約50の局と提携している。 APMは、主要な子会社であるミネソタパブリックラジオとサザンカリフォルニアパブリックラジオを通じて、BBCワールドサービスから番組を購入し、地域の関心を引く番組を編成している。

ニュース報道の制約
各州には複数の公共放送局があるが、多くは他局が制作した番組を配信しているにすぎない。公共テレビ放送局は、ラジオ局に比べてローカルや州のニュース番組を制作しない傾向にある。 Radio Television Digital News Associationの調査ディレクターを務めるロバート・パッパー氏によると、13のPBS系列局だけが日々のローカルニュースを提供しており、そのほとんどが大都市の局である。ニューススタッフを維持するには費用がかかるが、ローカルニュースは通常、幅広い視聴者を惹きつけられないため、制作コストを回収することができない。ラジオ局は、より柔軟な番組制作をしているが、ローカルニュースの制作スタッフには資金的な制約がある。

未来への道
「CPBが行った最も素晴らしいことの1つは、NPRやPBSの代わりに放送局に資金提供したことだと思う」とニューヨーク公共ラジオ(WNYC)の元社長兼最高経営責任者(CEO)であるローラ・ウォーカー氏は言う。 「すべての連邦上下院議会議員の選挙区に、ローカル放送局があるのは素晴らしい。出演する議員も、人々が放送局にニュースを依存していることを知っている」。

ペンシルベニア大学のビクター・ピッカード教授は、「市場が私たちのコミュニケーションと情報のニーズのすべてを満たすわけではないことは明らかである」と指摘した。 「私たちは、アメリカの公共放送システムを拡張し、すべてのプラットフォームとメディアを利用するすべての人にニュースと情報、文化的および教育番組を提供する中核的な民主的インフラストラクチャとして貢献するように再構築する必要がある」としている。

 技術力:編集者としてのアルゴリズム

アルゴリズムがニュースを選択すると何が起こるのか? 2018年、Facebookは、アルゴリズムを使用してさまざまな報道機関の記事を選択し、Facebookユーザーにローカルニュースなどのフィードを提供する「Today In」をリリースした。 2020年5月の時点で、「Today In」は6千を超えるコミュニティで利用可能だ。 2019年にFacebookから提供されたオリジナルデータと最近のサンプリングを用いて、ノースカロライナ州立大ハスマン・ジャーナリズム&メディアスクールの研究者は、同地域で利用可能なローカルニュース記事の適時性、関連性、種類等を調査した。

Facebookは、ソーシャルメディアのユーザーが、もっとローカルニュースを読みたいと望んでいることを明らかにした調査に基づいて、2018年に「Today In」を開始した。スマートフォンとタブレットでのみ利用可能な無料のサービスは、毎週1200を超えるニュース発行者からコンテンツを集める。 ノースカロライナ州内では2020年5月、225を超えるコミュニティを含めた約6千の町と都市で利用可能になり、Facebook発表では、160万人がこの機能を使用した。この機能は、通常、1日にトップの5つの記事を出し、ニュースフィードには、地方自治体や学校からの発表も表示される。

Facebookは「Today In」に出すニュースは作成せず、主に新聞社、テレビ局、ラジオ局によって作成されたコンテンツからアルゴリズムを使って選び出し、掲載する。発行者がコンテンツを「Today In」に投稿したい場合、正規のニュース制作者としてFacebookが確認するために登録する必要がある。しかし、過去15年間で2100を超える地元新聞が消滅したため、多くのコミュニティでローカルニュースが不足している。ノースカロライナ州立大があるチャペルヒルのように地元の新聞を失った町の場合、ニュースを選択するアルゴリズムはしばしば思いがけない結果をもたらすこともある。ローカルテレビ局や新聞など、複数の報道機関が存在するローリー、ダーラムなどの大都市圏でも、主要なニュース記事や調査報道記事をアルゴリズムは検出できない可能性がある。 「アルゴリズムは発展途上である」とFacebookのローカルニュースパートナーシップのリーダーであるジョシュ・マブリー氏は言う。

米国人は新聞紙よりもソーシャルメディアからニュースを入手するようになっており、全体の約43%の米国人がFacebookからニュースを入手している。「Today In」はニュース砂漠に対処するFacebookの主要な取り組みの1つである。

ノースカロライナ州立大学は2019年2月、「Today In」ニュースフィード記事への314,000のリンクなどの独自データをFacebookから、他の3つの大学とともに提供を受けた。Facebookは、米全体の約3分の1のコミュニティで、「Today In」を開始するのに十分なローカルニュース(1日5つ以上)がないと推定する。十分なニュース記事がある地域でも、アルゴリズムは新聞やテレビ局などの既存の報道機関が提供するものとは大きく異なるニュースリストを形成することがよくある。「Today In」のアルゴリズムは、Facebookに投稿されたニュース記事から、さまざまな指標に基づいて選択する。その指標には、Facebookによると、記事の適時性と地域との関連性、ある記事がある地域においてシェアされた頻度を示す指標も含まれるという。

ノースカロライナ州立大の分析では、一定期間のシェア数に依存するアルゴリズムが、投稿された記事の情報のタイプ、情報源(テレビ局または新聞からのものかどうか)などを選別していることだけは分かった。主な調査結果のいくつかを次に示す。

● 「Today In」ニュースフィードの記事の多くは2日以上前のものであった。
● 2019年の2月と9月にノースカロライナのコミュニティに投稿された記事のほぼ半分は、犯罪または人間的興味をそそる記事であった。
● 教育、健康、政治、インフラ、経済開発、環境などの重要トピックをカバーする全体像を示す記事は非常に少なかった。
● 新聞のトップページに掲載された主要なニュースと、「Today In」に掲載されたものとの間には隔たりがあった。ノースカロライナ州立大が分析した2019年2月の地元紙のトップページの記事のほぼ半分は、政治、教育、または健康の問題を扱っていたが、「Today In」におけるそれらの記事の割合は13%であった。(表1及び2)

表13-1)および2)2019年2月の地元紙のトップページの記事の分類とアルゴリズムが選んだFacebook「Today In」のトップページの記事の分類割合の比較
2)が示す数字は、ノースカロライナ州主要紙の一面の記事が、「Today In」に掲載された割合で、単位は%。

● 複数のメディアが存在する大都市圏では、新聞社よりも地方テレビ局からの記事が多い。これは、テレビ局のソーシャルメディアのフォロワーが新聞社よりもはるかに多く、その結果、テレビ局の記事がより頻繁に共有されるためと考えられる。
● 主要な大都市圏以外では、「Today In」の記事のほとんどは新聞社からのものであった。全体として、記事の半分強は新聞社からであり、3分の1はテレビ局からであった。

他の大学の調査研究でも、ローカルニュース報道について「Today In」機能にのみ依存するFacebookユーザーは、他の報道機関が報道する重要な地域の政治、経済、教育の記事を見逃す可能性が高いと結論付けている。

Facebookは2020年6月、独立したサービスとしての「Today In」を廃止し、代わりに、国内のいくつかの主要報道機関から選んだ全国ニュースを主とするFacebook Newsを通じてローカルニュースフィードを提供すると発表した。「Today In」機能とは対照的に、Facebook Newsは記事の選択をAIのみに依存せず、約30人のキュレーターを採用し、重要な記事を選択するなど編集上の判断も下すという。

しかし、Facebookは、AIによって過去に見過ごされていたローカルニュース記事の選定を行うキュレーターを採用する計画はしていなかった。多くの地方報道機関の記事にアクセスできるようにするため記事の使用料を払う計画もなかった。多くのローカルニュースの記事を全文読むためにはペイウォールや講読料の支払いが必要で、ユーザーが地方報道機関のサイトから離れる要因となっている。

「Today In」は、ソーシャルメディアでより多くのローカルニュースを見たいというFacebookユーザーの要望に応えるために設計された。しかし、タイムリーで関連のあるローカルニュースをユーザーに提供しよういうFacebookの試みは、2つの問題に直面した。まず、数百の地方紙の廃業や数千のジャーナリストの解雇により、多くの市場でローカルニュースの量は近年劇的に減少したため、地元のニュースが足りず、地元外のニュースが、それも2日以上遅れて掲載されることになってしまった。もう一つ、アルゴリズムによる記事の選択には、シェア数のように人気に重点が置かれ、内容が問題となったことである。

 政策と規制:現状

連邦上下院議員と州議会議員の政策立案者は、ローカルニュースをサポートするためにさまざまな法案と政策の改訂を検討している。受賞歴のあるジャーナリストで、連邦議会スタッフであるダナ・ミラー・アーヴィン氏が、これまでの立案とそれがどのような現状にあるのかを振り返る。

新型コロナウイルスの感染拡大がローカルニュースを破壊する状況に関心を持ち、支援策を模索する動きも広がっている。ローカルメディアに補助金を提供する法案がいくつかあり、民主・共和両党の何百人もの議員が連邦議会指導部に支持を訴えている。

トランプ前大統領が「国民の敵」と表現していたジャーナリストへの敵意を考えると、おそらくここで取り上げる法案のいくつかは、長期的な支援が微調整に止まる可能性もある。ここでは、現在検討中の提案や、現在議会提出前か、ある程度指示を集めている提案の現状に焦点を当てる。


表14)連邦議会に出されている、危機的状況にあるローカルニュースへの支援策の例

● 政府による直接支援(スモール・ビジネス・アドミニストレーション=SBAローン):米中小企業局による給与保護プログラム(PPP)では、資金的支援を即刻必要とする中小企業が、最大8週間の給与のための費用貸付が受けられる。給与支払いを維持すれば、ローンは免除される。しかし、新聞大手が所有するローカルメディアは、親会社の規模が大きいため、支援を受ける資格がなく、閉鎖や一時解雇を伴う統合が起きた。

● 法律による措置(年金債務救済):多くのローカルメディアは年金への現金拠出が厳しい上、株式市場での損失で年金資産目減りにより、不足額はさらに大きくなっている。CARES法(コロナウイルス援助、救済および経済的安全保障法)と呼ばれる景気刺激法案は、2020年に必要な支払いを2021年まで延期したが、CARES法にはHEROES法に含まれるより広範な救済がカバーされておらず、これらの保護の適用を強く求めている。

● 放送の統合と多様性(連邦通信委員会:FCC):地方紙が存続に苦労する間、テレビ局は、少なくとも新型コロナウイルスの感染拡大までは上手く乗り切ってきた。政治広告主が無制限のように支出できることで、放送局には大きな収益となっており、特に接戦州での価値を高めている。放送局は、番組を放送するケーブルテレビ会社や衛星放送テレビ会社からも高額な料金を得る。放送局の調査を行っているロバート・パッパー氏によると、これらは放送局の収入の40%近くを占めている。
シンクレア・ブロードキャスト、テグナ、ハースト・コーポレーションなどの大手メディア企業にとってもテレビ局は魅力的な買収先となり、FCCは多くの合併や統合を認めた。合併支持者は、合併によって規模の経済が生まれ、放送局や新聞社がデジタル時代に生き残るのに役立つと主張している。一方、元連邦通信委員会委員長のマイケル・コップスは、合併等により、「深く掘り下げる報道の筋肉が失われ」たといい、委員会の地方主義や多様性、競争を保護する使命が損なわれていると懸念する。

統合を遅らせる、あるいは覆す努力
リーマン・ショックに続く世界金融危機によって、投資リターンの最大化を主な目標とした民間投資会社という、新しい種類のメディア王の時代が到来した。新聞広告と購読収入が減少するにつれて、投資会社やヘッジファンドが買収を進め、2014年末までに、新聞チェーン最大手10社のうち6社は投資会社で、日刊紙348紙と週刊紙691紙を含む1039紙を所有することになった。現在、4つの大企業がアメリカの新聞の15%を所有する。統合の時代は、新聞社の廃業と空洞化した編集局によって特徴づけられる。

 進むべき道:ローカルニュース改革

2020年初の3カ月に、米国は3つの歴史的な危機に直面した。新型コロナウイルスの感染拡大、大恐慌時代レベルの景気後退、そして(訳注:ブラック・ライブズ・マターをきっかけとした)1960年代を思い起こさせる大規模な市民不安と抗議である。それぞれが国内および国際レベル、また地方レベルでも起こった。これらの危機は、私たちが日々行う判断を導くための信頼できる情報の必要性を高めた。

ローカルニュースの生態系は危機に瀕している。本レポートの前半では、私たちが失ったものについて説明した。この後半では、相互に関連する4つのカテゴリにおける課題と将来の機会について説明した。ローカルニュースの何を維持し、何を改革するのか、それを決める必要がある。

ジャーナリズムの使命
社会がますます二極化する米国において、ニュース砂漠は文化的、経済的、政治的分裂をもたらしている。過去15年間で、米国は地方新聞の4分の1を失った。地方紙は、歴史的に、ほとんどの中小規模のコミュニティで信頼できる重要なニュースの源であった。新聞を失った都心部、郊外の町、農村の多くは経済的に困難な状況にあり、住民の3分の1が貧困に苦しんでいる。多くはまた、主要報道機関のジャーナリストによってしばしば見落とされているマイノリティが住む地域である。

米国は、白人がマイノリティになる2030年代のいつかに向かって容赦なく進んでいる。強力なローカルニュース報道がなければ、見過ごされ、サービスが行き届いていないコミュニティの住民の声は届かず、彼らの話は語られない。その結果、民主主義と社会に損害を与える。新聞を失ったコミュニティの多くは、信頼できるローカルニュースの代替を持っていない。

強力なローカルジャーナリズムは、民主的な制度への信頼と、強力なコミュニティを構築する。ワシントン・ポストの2018年のコラム「ローカルニュースの危機は、分断されたアメリカが切実に必要としているものを破壊している:共通の土台」で、メディア評論家のマーガレット・サリバン氏は、ローカル記事の喪失がもたらす問題の一つは、「我々が知らない出来事が、理解できないということである。腐敗が蔓延し、税金が上昇し、公務員が最悪の衝動にふける可能性がある」という。20世紀最初の数十年間、ジャーナリストは客観性と公平性を中心に構築された行動規範の確立に集中した。住民が重要な情報にアクセスできないために権利を剥奪されているコミュニティがないようにすることは、21世紀のジャーナリズムの課題である。この使命を達成するための負担は、ジャーナリストだけでなく、コミュニティ活動家、慈善家、報道機関の所有者、政府関係者が負うべきである。

ビジネスモデル
ほとんどの報道機関を200年間支えてきたビジネスモデルの崩壊により、デジタル購読料、メンバーシップ、クラウドソーシング、助成金などの新しい収入源を慌てて模索してきた。しかし、これまでのところ、特効薬はなく、新しい収入源が広告費の流失を補うことはできないであろう。その結果、地元紙は相次ぐ劇的なコスト削減に動き、過去10年間でジャーナリストの半数が失われた。

より裕福なコミュニティに存在し、地元で所有および運営されているローカルメディアは、営利および非営利の資金を得られる可能性が高くなっている。一部の裕福な支援者は、有名な新聞社を買収したり、デジタルサイトの立ち上げに資金提供したが、より貧しい中小規模のコミュニティでは、誰も支援せず、何百もの日刊紙や週刊紙が廃業した。さらに、広告収入を補うために、貧しいコミュニティの住民にニュースの対価を求めることは、質の高いジャーナリズムをまかなえるコミュニティとできないコミュニティの間の格差を広げる甚大な結果をもたらしている。

ジャーナリズムは「公共財」と見なされる。理論的には、情報に通じた市民は、自分や隣人の生活を向上させるよりも、重要な問題についてより適切な決定を下すからである。それでも、米国は、公共メディアに対する政府支援がないという点で、民主主義の中でも独特である。国の公共放送の主力であるPBSとNPRでさえ、税金ではなく、主に非営利団体による財政的支援に依存している。ただし、ローカルニュースに対する非営利による支援は、現地取材を支えてきた収益の喪失を補うために必要なもののごく一部にすぎない。富裕層と貧困層とを問わず、すべてのコミュニティが健康や公共の安全などの重要なトピックスに関する重要な情報にアクセスできるようにする唯一の方法は、ローカルニュースにより多くの公的資金を割り当てることであろる。これは、編集の独立性を具体化する、NPRとPBSによってすでに確立されているジャーナリズムモデルを構築し、税金で新旧の報道機関を支える新しい方法を見つけることを意味する。

技術力
インターネット時代において、米国は、高速インターネットにアクセスできる人とアクセスできない人の間でデジタル的に分断された国である。ブロードバンドとワイヤレスが利用できるコミュニティでさえ、多くの住民はそれらのサービスにアクセスするための毎月の請求書を支払う余裕がない。スラム地域、農村部コミュニティ、ネイティブアメリカン居留地の住民は、技術革命がもたらされず、新型コロナウイルスの蔓延についてのタイムリーな情報を入手するのに苦労し、学校が閉鎖されたときに子供たちはオンライン学習に参加できなくなった。地方、州、連邦レベルで、アメリカの他の地域と接続するデジタルインフラを構築する重要な取り組みがなければ、これらのコミュニティ(多くは貧しく、マイノリティが多い)はゆっくりと衰退し、消滅するであろう。

米国は、ニュースや情報を選択するアルゴリズムによって、政治的に分裂した国でもある。報道機関は、FacebookやGoogleが提供する測定基準に依存しながら、ニュース記事や誤報がどれだけ広くシェアされ、引用されているかについて即座にフィードバックを提供する。公共サービスジャーナリズム(教育、環境、政治、経済などの非常に重要な問題に関する調査報道と分析報道)はインターネット上で注目を集めることができず、センセーショナルな犯罪記事と風変わりな特集記事がニュースフィードの主力になる。そして、情報を検索すると、陰謀論がトップに表示される。

同時に、デジタル広告スペースにおけるFacebookとGoogleの優位性により、強力な公共サービスジャーナリズムを支えるために必要な収益と利益が報道機関から奪われた。GoogleとFacebookの両方がローカルニュースを支援するために3億ドル支払うことを約束したが、それは2大企業が破壊したローカルジャーナリズムに取って代わるということではない。 2018年の議会証言で、Facebok 最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグ氏は、Facebookが「主にエンジニアとプロダクト製造のテクノロジー企業」であると主張した。メディア企業ではなくテクノロジー企業と主張することにより、フィードで受け取るニュースや誤報を決定するアルゴリズムについて厳格な編集上の決定を下す責任が免除され、ローカルメディア、特に中小のコミュニティの人々に信頼できるニュースを提供する報道機関の経済的困難に対処しなくても済んでいる。

政策と規制
ローカルジャーナリズムは、過去15年間で劇的に減少している。それでも、ピュー・リサーチ・センターによると、2019年、調査対象のほぼ4分の3が、地方紙やローカルデジタルサイトが直面している経済的困難に気づいておらず、過去1年間に購読料を支払ったのは調査対象者の15%未満であった。ワシントンD.C.の連邦議会議員や政府機関によって現在さまざまな施策が検討されているのは、ローカルニュースが危機に瀕していることに連邦レベルで気づいている証左である。それでも、本レポートの審議中の法案と政策とのまとめが指摘しているように、提案の多くは対象を絞って範囲を限定しており、根本的な問題に対処していない。

21世紀のニーズを満たすようローカルニュースを改革するために、新しい政策と規制は、ビジネスモデルや技術力と、ジャーナリズムの使命の相互関係を理解する必要がある。報道業界とテクノロジー業界の大規模な統合により、ジャーナリズムとビジネスの意思決定は、少数のテクノロジー企業大手の手に委ねられている。彼ら自身は、彼らの決定がコミュニティにもたらす影響は受けない。これらの問題に取り組むことは、二極化したアメリカにおいて論争となるであろうが、国、州、地方レベルにおいて、政府関係者と一般市民の間で協力することが必要である。

米国には大都市と小さな町がある。米国国勢調査局によると、人口が50千人を超えるのは775の都市だけだが、約2万の自治体の人口は5千人未満である。米国の統治システムは、ニューヨーク市マンハッタン地区の高層マンションに住んでいるか、カンザス州マンハッタンの農場に住んでいるかに関係なく、この国の3億3千万人の居住者への信頼できる情報の一貫した流れに依存している。ペンシルベニア大学のヴィクター・ピッカード教授は、「ジャーナリズムのない民主主義」の中で次のように書いている。「地域の学校、地方政府、その他の重要な機関、自分の裏庭で何が起きているのか、ローカルジャーナリズムを通じて繋がったり、情報を得ている。自分たちの地域の水が安全かどうかといった生活環境、誰が地元の公職に立候補しているのか、その理由を知るには、ローカルニュースが必要である。しかし、急速に消えつつあるのは、まさにこういった類のジャーナリズムである。私たち社会がローカルジャーナリズムを奨励したいのであれば、それを支える方法を見つけなければならない。」