「オンラインコミュニティにおける分断はなぜ生じるのか? インドでの実証研究から」後藤潤

2021.04.14
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後藤潤
神戸大学大学院経済学研究科講師
1984年北海道生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。一橋大学経済研究所講師、東京財団政策研究所リサーチフェローなどを経て現職。

ソーシャルメディアは政治的な分極化を引き起こしているのか

近年ソーシャルメディアやSNSが我々の社会に深く浸透し、いまやオンラインコミュニティにおける交流やインターネットを通じた情報の取得は社会生活において不可欠な要素となりつつある。

アメリカの法学者であるキャス・サンスティーン(Cass R. Sunstein)氏は2001年の著書の中で、急速なインターネットの普及が閉鎖的なコミュニティ内部での交流を促進することで極端に偏った信念やイデオロギーを生み出し、その結果社会的な分断がすすむ可能性があると警鐘をならした。

それ以降多くの評論家や識者が、インターネット全般、特にソーシャルメディアが、経済的、政治的、文化的なイデオロギーの対立を先鋭化させていると指摘している。こうした社会的懸念が深刻化していることを受けて、厳密な実証エビデンスにもとづいてソーシャルメディアのあり方や社会的分断の抑制方法を議論することが喫緊の課題となっている。

こうした背景を踏まえて、本稿はオンラインコミュニティにおける分断に関する二つの実証エビデンスを紹介する。これらのエビデンスを通じて(1)ソーシャルメディアは政治的な分極化を本当に引き起こしているのか、(2)もしも実際に分極化を引き起こしているのであれば、どのようなメカニズムでそれが生じているのか、(3)そして、分極化を抑制するソーシャルメディアのデザインとはどのようなものか、について解説する。

Facebookを使ったアメリカでのフィールド実験

Roee Levy氏は2018年にアメリカのFacebookユーザーを対象に大規模なフィールド実験を行った。具体的には、実際のアプリユーザーに対してランダムに保守派もしくはリベラル派のニュース配信サイトを購読するよう依頼し、特定のイデオロギーに偏向した情報を一定期間消費することで人々の行動やイデオロギーにどのような影響がでるのかを検証した。[1]

その結果、四つの興味深い知見が得られた。

第一に、特定の政治イデオロギーに偏ったニュースサイトの購読を促すことで、ユーザーが実際に消費するニュース内容に偏りが生じるようになった。重要な点は、そのようなニュースの偏向的消費は実験参加前の政治イデオロギーが保守・リベラルどちらの場合でも確認された、ということである。これは、例えばある被験者がもともと保守派のイデオロギーを持っていても、一定期間リベラル派のニュースサイトを購読するグループにランダムに割り当てられると自分のイデオロギーとは異なるリベラル派のニュースを選択消費する傾向が強まることを意味している。したがって、自分のイデオロギーとは相反するイデオロギーの情報に対してもよりアクセスしやすい環境が整えば、積極的に(自らのイデオロギーとは反対の)情報取得を行うことが示唆される。

第二に、自らの政治イデオロギーと対立する政治イデオロギーを支持するニュース(counter-attitudinal news)に一定期間触れた場合、ユーザーは対立する政治イデオロギーを掲げる政党に対してより理解を示すようになり政治的分断が緩和されることが明らかとなった。一方で自らの政治イデオロギーと一致するニュース(pro-attitudinal news)に触れ続けた場合は党派に対する態度に変化はなかったことから、政治的二極化の起源は対立する政治イデオロギーに関連するニュースの消費がカギになることが示唆された。

第三に、このような実験介入とそれを通じたニュースの偏向的消費が、ユーザーの政治的意見そのものにどのような影響を与えたのかも検証された。しかしながら、政治的見解に対する影響は統計的に有意な水準では検出されず、政治的イデオロギーについてバイアスのかかったニュース消費が個人の政治イデオロギーそのものを変えるとはいえないことがわかった。

最後に、Facebookの内部に組み込まれているアルゴリズムは、ユーザーが自分のイデオロギーと相いれないニュースを消費する機会を制限するようデザインされているため結果的に政治的分断を深刻化させる可能性があることが解明された。

Levy氏の研究によって、ソーシャルメディアで採用されているアルゴリズムがユーザー個々人による偏向的ニュース消費を助長しており、政治的イデオロギーの分断を防ぐためには自らの政治イデオロギーと対立する情報源へのアクセスが重要であることが示された。

しかしながら彼の研究では、なぜ人々が極端にバイアスのかかった情報に触れた際に自らのイデオロギーや態度を変化させるのか、背後にあるメカニズムの検証はされていない。具体的には、上記の結果でいうと、自らのイデオロギーとは異なる情報に触れたユーザーはなぜ当該イデオロギーをかかげる政党に対する態度を軟化させたのかが十分には明らかになっていない。この問いへの回答を探るために、次は筆者が行ったインドでの大規模フィールド実験を紹介する。

多様な意見への接触が社会分断を防ぐ:インドでのフィールド実験から

インドでは社会カーストに基づく差別問題が歴史上重要な争点となってきたことは周知の事実である。近年、ヒンズーナショナリズムの高まりとともに社会カーストにもとづく(差別的な)統治機構を強化しようとするカースト推進派とそれに意を唱える反ナショナリズム派の間で対立が激化している。

筆者は、このインドにおいて、ソーシャルメディアでのコミュニケーションやニュース消費が、カーストにもとづく差別的なイデオロギーに対してどのような影響を与えるのかに焦点を当てた大規模な実験を行った。[2]

この研究のために民間企業と共同でオリジナルのニュースアプリを開発し、2015年12月~2019年12月までインド限定でGoogle Playストアなどのプラットフォームで公開した。アプリはベーシックなニュース配信機能をもっており、インドにおける政治的なトピック、とりわけ社会的に争点となっているトピックに焦点を当てて世界中のニュースサイトを巡回し該当する記事をピックアップしてくるようデザインされている。これらのステップで集められたニュースをデータベース化してその中からいくつかの記事をユーザーに配信するのが我々のアプリのメインの機能である。

アプリをダウンロードするとユーザーは以下の二つのグループのうちのどちらかにランダムに割り当てられる。

(A)ニュースデータベースからニュースをランダムで配信されるグループ
(B)機械学習アルゴリズムで最適化したニュースを配信されるグループ

さらにそれぞれのグループにおいて、1日に配信されるニュースの量、ニュースの表示順序、ほかのユーザーによるニュースへのコメントの表示をランダムに行った。特に、ほかのユーザーのコメント表示については、常にランダムに選ばれた3つのみが表示されるように設定した。これらのデザインによって、機械学習の最適化アルゴリズムは人々のニュース接触機会を限定してしまうのか、またカースト差別に対して極端に賛同・反対するニュースを受け取ることで人々のイデオロギーがどのように変化するのかを検証することが可能になる。

実験参加者は合計で192,486人にのぼり、18歳から72歳までの幅広い社会階層が平均で382日間アプリを利用した。この実験の結果、三つの重要な知見が得られた。第一に、最適化アルゴリズムはユーザーが消費するニュース内容に偏りを生じさせることが明らかとなった。

図1はアプリによってグループB(最適化アルゴリズムによるニュース配信グループ)に割り当てられたユーザーがどのようなニュースを消費したのか、実験開始前のカースト差別に対するイデオロギー別に示したものである。この図から、実験開始直前の調査で測定されたカースト差別に対するイデオロギーの違いにもとづいてユーザーは自分の意見と整合的なニュースをより多く消費するようになることがわかる。最適化アルゴリズムによるニュース配信が、ユーザーによる限定的なニュース消費を促すことで幅広い内容のニュースへの接触機会を減少させていることが明らかとなった。

図1:ユーザーによるニュースの選択的消費

第二に、グループAに割り当てられたユーザーに焦点を当てて、カースト差別に関して極端な立場のニュースを受容することでユーザーのイデオロギーに変化が生じるのか分析を行った。その結果、ユーザーは極端なイデオロギー的主張を含むニュースを受容しても影響を受けないことが判明した(図2参照)。ただし興味深いことに、配信されたニュースに対する他ユーザーのコメントが「全て」当該ニュースを肯定する内容である場合、人々はニュース内容に影響を受けて自らのイデオロギーを変化させることも明らかとなった(図3参照)。この実験結果が示唆するのは、ユーザーは他者の意見やイデオロギーを考慮しながら、自らが消費するニュース内容の重要度や信ぴょう性を判断している可能性が高いという事実である。

図2:極端な内容のニュースがイデオロギーに与える影響
(他者によるニュースへのコメントが賛成意見・反対意見の双方を含む場合)

図3:極端な内容のニュースがイデオロギーに与える影響
(他者によるニュースへのコメントが賛成意見のみを含む場合)

実験で用いられたアプリには、ユーザー同士がフレンド登録することで直接メッセージを送りあうことができる機能が備わっている。したがって、この機能を通じて各ユーザーがどれだけの規模のネットワークをアプリ内で形成しているのかを測定することができる。このネットワーク情報を用いてニュース内容から強く影響を受けるユーザーの特性を分析したところ、オンラインコミュニティ内で広いネットワークを形成しているユーザーほど影響を受けやすく、他ユーザーとのつながりを全くもたない孤立したユーザーの場合はほとんど影響をうけないことがわかった。

分極化を防ぐニュースアプリのデザイン構築

これらの実験結果は、「ソーシャルメディアは社会的分断を助長する」という冒頭で指摘した社会的懸念と整合的なものであり、オンラインコミュニティにおける分断化や二極化が現代社会の重要課題であることを再認識させるものである。それと同時に、そのような事態を防ぐためにソーシャルメディアのデザインがカギとなることも示唆している。

とりわけインドの実験から得られた(1)人々は他者の意見やイデオロギーを意識しながらニュースに接触している、(2)オンラインコミュニティ内部で他者とつながっているかどうかが極端なニュース内容から影響されるかどうかの重要な決定要因である、という二つの知見から、自らが帰属するコミュニティから逸脱してしまうことを避けたいという社会同調メカニズムを通じてイデオロギーを極端化させている可能性があることが明らかになったのは重要である。

したがって、例えばさまざまな意見が社会には存在することを明示的に提示したり、さまざまなイデオロギーのユーザーと交流できるプラットフォームを構築することは、オンラインコミュニティにおける分断化の抑制に効果的ではないかと推察される。

社会生活におけるインターネットの浸透が全世界的にすすむなか、近年オンラインコミュニティの分断や格差に関するエビデンスが急速に蓄積され始めている。ここで紹介した実証研究以外にも、機械学習によるアルゴリズムがランダムなニュース配信に比べて社会分断を抑制する可能性があることを指摘した研究[3]や自分とは異なる政治イデオロギーの情報に触れることでよりイデオロギーの先鋭化がすすむ可能性を指摘した研究[4]もある。オンラインコミュニティにおける分断化がなぜ生じるのか、さらにどのようなソーシャルメディアのデザインが社会の分断化の解決に資するのかは、いまだコンセンサスが得られているとはいえず、さらに研究を蓄積していく必要がある。


[1] Levy, Ro'ee. "Social media, news consumption, and polarization: Evidence from a field experiment." American economic review 111, no. 3 (2021): 831-70.

[2] Goto, Jun. "Social Media, Discrimination, and Politics: Online Field Experiments in India", (2019) mimeo

[3] Jo, Donghee. "Better the devil you know: An online field experiment on news consumption." (2017). mimeo

[4] Bail, Christopher A., Lisa P. Argyle, Taylor W. Brown, John P. Bumpus, Haohan Chen, MB Fallin Hunzaker, Jaemin Lee, Marcus Mann, Friedolin Merhout, and Alexander Volfovsky. "Exposure to opposing views on social media can increase political polarization." Proceedings of the National Academy of Sciences 115, no. 37 (2018): 9216-9221.