「若年層に広がる『能動でも受動でもないニュース受容』」天野彬

2021.05.17
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天野彬
株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ主任研究員
1986年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了(M.A.)。専門分野はSNSや若年層の消費トレンド。企業との共同研究プロジェクトを多数手がける。主著に『シェアしたがる心理』『SNS変遷史』『情報メディア白書(共著)』など。

 

世代で異なる「頼りにするメディア」

本稿では、若年層の情報接触とニュース受容のあり方について、筆者が関わった調査プロジェクトや関連する研究の知見を紐解きながら考察を深めていきたい。若年層のニュース受容と銘打ちつつも、それは若い人のことだけでなく、現代の情報環境を読み解くうえで私たち全員に関わるヒントとして捉える視点が重要だ。

その趣旨に迫るために、世代ごとのメディア利用実態を見ていこう。電通メディアイノベーションラボが行った調査から[1]、まずは各メディアの接触頻度について確認する。青いブロックが「テレビ・ラジオ」、緑が「新聞・雑誌」、黄緑が「デジタルメディア」で、赤が「動画共有サービス」、そして黄色が「SNS」を指しており、面積が大きいほど接触頻度が多いことを示している。

50代~60代は青の「テレビ・ラジオ」ブロックが巨大な存在感を示している。おそらく70代以上も同様の傾向だろう。20代~40代も黄緑の「デジタルメディア」ブロックが大きく全般的に共通性がみてとれるが、10代は特異的に黄色の「SNS」ブロックがトップシェアを占める。メディア接触は年齢持ち上がり効果があるため、いまの10代は10年後も――つまり、20代になっても、SNSを接触筆頭メディアとするだろう。

若年層はインターネットメディアなのに対して、年齢が上がると伝統的なメディアになるという二項対立がよく聞かれるが、実際には三層に分化しつつあると捉えられるように変化している。

いま説明したのは接触頻度だったが、今度は同調査より頼りにするメディアは何かという心理的な重要性を計測した結果を共有したい。「テレビ」「雑誌」…などからさらにブレイクダウンした74のメディア分野について聴取し、それに対してカテゴリカル因子分析を施したものが表側の12項目となる。青がポジティブで、赤がネガティブである。

50代~60代は接触頻度も高かった伝統的なニュースメディアを頼りにしていることがわかる。なお40代はなにも頼りにしていないということではなく、平均値に近いということを意味している。デジタルメディアを頼りにする若年層と、伝統メディアを頼りにする高齢層との境目が40代なのだ。

10代はSNSを頼りにしていることがわかるが、興味深いのは個人が発信する形式のものに加えて、マスメディア由来の情報もSNSであれば頼りにしているということだ。コンテンツの中身というよりも、自分たちが普段いる場で接触できるかどうかがより重要であるということが示唆される。

Instagram, Facebook, Twitterなど代表的なソーシャルメディアの利用法の違い

では、代表的なソーシャルメディアはどのように使い分けられているのだろうか。筆者がまとめたSNS利用法の分類[2]を概観していこう。

まずInstagramは国内MAU(月間アクティブユーザー数)3300万人で、2017年に「インスタ映え」が流行語大賞をとったことからもわかるように、日本では女性ユーザーがブームをけん引した。いまでは「インスタ映え」という言葉そのものはあまり使われないが、とっておきの体験をシェアし、それを起点にコミュニケーションを図るという特質は不変だ。したがって、ユーザーは発信者のテーマ・世界観を求めて見に来るということがいえるだろう。最近では、Instagramは通常投稿だけでなく、ストーリーズやリール、さらにはライブ配信といった機能拡張を進めており、「誰もが簡単に持てるホームページ」のような位置づけになってきた。それも踏まえて、筆者はInstagramの特性を「その人の家/部屋に遊びに行く」と言い表している。

Facebookは国内MAU2700万人であり、実名登録制ということもあって、オフィシャルなつながりを楽しむ場だ。投稿される内容も知り合いに共有したいパブリックな内容が多い――また、むやみに情報が拡散されることもないので、ニュースに自分のオピニオンを添えてシェアすることも多い。筆者はFacebookの利用特性を「パーティー会場での社交」に喩えている。なお、アメリカをはじめとしてグローバルではFacebookのMAUは29億人といわれており、ニュース消費の場としても重要な位置を占めている。

最近、日本でも存在感が高まっているのがTikTokで、国内MAUは950万人である。15-60秒ほどの短尺動画をシェアするショートムービープラットフォームで、ダンスや歌だけでなくいまでは様々なテーマで発信されるが、どれもエンタテインメント志向が色濃く表れる。TikTokは「自分の長所・特技を披露するステージ」だといえる。サービスのレコメンドアルゴリズムが秀でており、ユーザーの多くは自分のフォローするタイムラインではなく、「おすすめ」ばかりを見ることが様々な調査から明らかになっている。

そして、Twitterは国内MAU4500万人で、情報の拡散に最も適したSNSだ。発信も気軽であることから、ファストなコミュニケーションと言えるだろう。InstagramやTikTokが個人の世界観やスキルを見せる場だとすれば、Twitterは世の中ごとの場だと対比できる。みんながある出来事に対してどう思っているのか、そのカンバセーションこそが焦点となる。また、なにかのイベントやテレビ番組などリアルタイム性が強いコミュニケーションも特徴だ。Twitterの利用特性は、「みんなが何してるかを見に広場へ」とまとめられる。Twitterとニュースの関わりにおいては、ハッシュタグをつけて意見表明をしたり、それをもとに意見を組織化して世論を動かすハッシュタグアクティビティが盛んになっている。[3]

その他のソーシャルメディアとして、LINEもニュースやタイムラインを強化しているし、YouTubeでもニュース解説を行ったり、オピニオン発信をするチャンネルが増えていることを明記しておきたい。

ニュースの定義の「ソフト化」

私たちはニュースというと、社会情勢や政治経済の動静を知るためのものだとイメージする。しかしながら、若年層にとってのニュースはより定義が拡張されつつあり、これまではニュースとして分類されていなかったものも含むようになっている。端的に言えば、よりソフトなものに変化している。それをもたらす要因をまとめてみよう。

●SNSなどでは個人のオピニオンとともにニュースがシェアされるため、ニュースそのものの内容だけでなく、解釈のフレーミングが与えられた状態で受容することが増えている

●LINE NEWSなど、軽い読み物風のものも「ニュース」として位置付けられ配信されてくる。つまり、ハードニュース以外の「音楽・エンタメ」「流行」「芸能人やインフルエンサーの近況」「個人の意見・オピニオン」などがいまではニュースに含まれるようになっている

●SNSのタイムラインやスマホのプッシュ通知において、友人知人の近況報告や趣味の情報が、既存メディアの情報と横並びで処理されることで重みづけが変調をきたしてしまう

まとめると、ニュースがニュースというジャンルの独立性を保ち切れず、他の情報ジャンルとの競合の中で相対化されてきていることがわかる。信憑性に乏しいニュースをどのように回避し、流通を阻止するかといういま私たちが直面する社会課題とも密接に絡んだテーマなのだ。

「周りの反応」も含めてニュースを捉える層の存在

2015年3月に電通メディアイノベーションラボが実施した調査では、メディア利用パターンから見ると、どれだけメディア活用に積極的かという観点から生活者を3つのクラスターに分類できるということがわかった。関与度合いでスライスすると、メディア高関与層は21.4%。メディア中関与層は26.7%。そして、メディア低関与層は51.8%である。

メディア低関与層はメディアを通じて情報を取得するということにそもそも労力を払わない。テレビがかろうじてリーチすることができる程度だ。こうした人々が約半数いるということになる。メディア中関与層は情報をある程度得ようと努めるが、こだわりをもって開拓していくようなことはあまりない。テレビや新聞、国民的なプラットフォームサービスなど「みんなが見る」ような場で接触するニュースがメインである。四人に一人ほどが該当する。メディア高関与層になると、自分の関心にあわせて様々なメディア――例えばセグメント誌やインターネットメディアなどをディグる(掘る)ことに積極的だ。五人に一人程度の割合である。

さらに、このメディア高関与層(21.4%)を腑分けすると、ほぼ同じ割合で、中高年中心のデジタルメディア重視クラスター(高デジ)と、若年層中心のデジタルメディア重視クラスター(若デジ)があらわれる。両者は、ニュースのどこを見るのかが異なる。

具体的には、ストレート記事を読むのは、高デジでは92.1%だが、若デジは71.9%である。ニュース記事で専門家の解説を読むのも高デジは50.9%だが、若デジは41.2%となっている。

しかしながら、読者による投稿・コメントを参照するのは、若デジが35.6%なのに対して、高デジは27.9%となっている。ネットの話題を紹介する記事を読むのも、若デジが26.2%、で、高デジは21.9%と差が生まれる。

つまり、情報感度が高いニュース受容者の中でも、年齢が高めの人々はストレート記事や解説、評論などを読んでおり、〈理解を深める〉という志向があるとまとめられる。その一方で、情報感度が高い若年層は〈周りの反応を知る〉という志向を持つという対比性が確認されるのだ。それまでのニュース受容のあり方も関係しているだろうし、ここまで述べてきたようにSNSが主要な情報取得の場になっていることの影響が出ていると推測できる。

「おすすめ」に抵抗感のない若年層のニュース接触

もう一つの若年層のニュース受容に関する特徴を考えるうえで欠かせないのが「おすすめ」の存在だ。

補助線となるデータを紹介すると、法政大学の調査によれば、「(A)ニュースには意識して自分から接している」と「(B)ニュースはたまたま気づいたものだけで十分だ」のうち、(B)のみで良いと考えるのは10代~20代が多く、30代以降は(A)の能動的接触を重視するようになるという。「自分が知りたいことだけを知っておけばいい」の回答比率も10-20代は4割程度と高く、60代の回答率は2割程度と約半分になる。[4]

ただし、この「気づいたものだけで十分だ」は若者に探究心がないといったわけでなく、気づきのレベルが向上し、そこに効用感を確かに感じているがゆえのことなのだと筆者は推察してみたい。

広告業界では、生活者の情報行動モデルとして、1920年代に提唱されたAIDMAと、2004年に提唱されたAISASがよく知られている。AIDMAはAttention(注意)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)からなる頭字語だ。当時はまだ広告メッセージを受容してから店頭での購買行動までに時間的距離があったため、「Memory(記憶)」が挟まるのが特徴的だ。したがって、覚えてもらえるようなキャッチーな表現手法が成熟していったり、記憶に残るためには5回接触する必要があるといったフリークエンシー理論が発展していったりした。AISASはAttention(注意)、Interest(興味)、Search(検索)、Action(行動)、Share(共有)からなる頭字語で、Search(検索)とShare(共有)が加わったかたちだ。特にソーシャルメディア以降、買い物の前に情報を検索したり、商品やサービスの評価を口コミのかたちで人々が共有するようになった変化を捉えている。

これらに続いて、最近提唱されているのがALSASである。ALSASは、「ALgorithm:アルゴリズム」→「Sympathy:共感」→「Action:行動」→「Share:共有」の頭文字を取ったもので、ユーザーごとに適した情報を差配するアルゴリズムの仕組みが、重要なコンタクトポイントの座を占めるようになったことを指している。いま若者に人気のTikTokはまさにALSASの精度の高さが競争優位性となっている。

AIDMAは受動的な情報接触(生活者は受動態=情報を受け取る)、AISASは「Search:検索」や「Share:共有」を含む能動的な情報接触(生活者は能動態=情報を探す)である。それに対して、ALSASは中動的な情報接触(生活者は中動態=情報プロセスの中に組み込まれる)と描き分けられる。では、中動態とはなんだろうか?

哲学者・國分功一郎氏(東京大学大学院総合文化研究科准教授)によれば[5]、私たちは一般的に能動態vs.受動態という対比で捉えているが、実は受動態は中動態から派生してきたものに過ぎない。能動態と受動態は、行為と行為する主体そのものを切り離せるようなありかたを指すが、それに対して中動態は、行為する主体がその行為の過程に含まれるような形式を指している。この考え方からすると、私たちの行動履歴がAIにとっての学習データとなり、それが「おすすめ」として戻ってくるという再帰的な情報との出合い方を指し示すには、中動態という術語を活用するのが最も適していることがわかる。

さらに國分氏によれば、中動態には「主体-選択-責任」図式を中和するという現代的な意義がある。私たちは、自分の能動か誰かからの受動のみで構成される世界を生きているわけではないし、その見方は人間の意志なるものを狭く捉えすぎてしまっているという弊害をもたらす。また、筆者は現代が情報の取捨選択が難しいからこそ、生活者はそれを緩和したいというニーズを強く持っているのだと考えている。特に若者は精度が高ければ、おすすめに依存することへの抵抗感はないし、それは現代の情報環境への若年層なりの順応と捉えるべきだろう(その意味では技術をフラットに評価している)。動画やSNSといったエンタテインメントはもちろん、先述したようにニュースそのものがソフト化していることの影響もあいまって、若年層のニュース受容のあり方を考えるうえでも、ALSAS的な情報受容の重要性はますます高まっていくはずだ。


[1]電通メディアイノベーションラボ 『頼りにするメディアに関する調査』(2018.11)
[2] 『SNS変遷史―「いいね! 」でつながる社会のゆくえ―』(2019年、イースト新書)
[3] 天野彬「グーグルが教えてくれない情報がそこにはある!「ハッシュタグ進化論」」(Forbes JAPAN 2018年7月5日掲載)
[4] 法政大学大学院メディア環境設計研究所『アフターソーシャルメディア』(2020年、日経BP)
[5] 國分功一郎『中動態の世界』(2017年、医学書院)