池田謙一
同志社大学社会学部メディア学科教授
1955年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。博士(社会心理学)。専門は社会心理学、政治社会心理学。主著に「社会心理学」(共著、有斐閣)、「統治の不安と日本政治のリアリティ」(単著、木鐸社)などがある。
スマートニュース・メディア価値観全国調査(以下、SMPP調査)は2023年と2025年に実施され、その双方でテレビ、新聞、ラジオといったマスメディアへの信頼に関して繰り返して尋ねている。これをもとに、2025年6月10日のスマートニュース メディア研究所のプレスリリース「政治や選挙で『最もよく使う』情報源、6割強がマスメディア」で報じられた内容のさらなる分析を行う。
プレスリリースでは「マスメディアへの信頼をたずねたところ、68.7%が信頼している(とても信頼している+まあ信頼している)と回答しました。前回調査(2023年)では68.2%で、ほぼ同じでした。今回の調査は、2024年の東京都知事選や兵庫県知事選でマスメディア批判が話題になったり、著名芸能人と女性とのトラブルにテレビ局社員が関与したとされる問題が発覚した後に実施されましたが、マスメディアへの信頼度に変化はみられませんでした」と報告された。
この数字は2回の独立した2つの調査の結果を報告したものであったが、SMPP調査では2023年と同じ回答者に再び尋ねたデータも取得した。この2年分のデータはパネルデータと呼ばれ、同一人物の変化を測定できる枠組みとなっている。それを検討すると、その結果からもマスメディアへの信頼は落ちていないことが確認できた。もちろん、同一人物の回答にはぶれがあり、ある人は信頼を上昇させ、ある人は低下させており、それらが相殺されて図1のような分布となった。マスメディアへの信頼は4点尺度で測定されており、無回答者(約1%)を除き2回とも回答のあった人々の2年間の差異を表示したものである。およそ3分の2の人々は全く変化がない。そして、信頼が低下した回答者はマイナス値を取り計15%であるのに対して、上昇した人は計21%となり、平均値は0.07とわずかにプラスとなっていた(統計検定ーT-test、Wilcoxon符号付順位検定ーでは有意差あり)。
以下では、このパネルデータを用いて、信頼の低下や上昇が市民の行動の変化をもたらしたのかどうかをメディア利用という視点から解き明かしていく[1]。

図1 2023-2025年の間のマスメディアへの信頼の変化
分析を進める前に、日本でのマスメディアへの信頼の変化が世界的に見てどんな位置づけを持つか概観しておこう。Fletcherらの研究(2025)[2]はロイター・ジャーナリズム研究所によって2015年から2023年の9年間に渡り46カ国で取得したニュースへの信頼(I think you can trust most news most of the timeという問いに対する5段階回答)の調査データを分析の対象としている。合計333調査×年のデータをマルチレベル分析(REWB)で検討したものである。
それによると、コロナ禍をはさんで世界全体ではわずかに信頼は低下しており、国別の傾向を検討すると、13カ国では統計的に上昇し、24カ国では低下していた。低下したもののその変化が最小であったのは日本であった。9年間でわずかな低下が示されている。これに対するに、以下で分析していくSMPPデータは2023年と2025年のパネルデータで、わずかな上昇があった(前項参照)。この2つの知見の間に矛盾があるわけではなく、基本的には日本でのメディアへの信頼は、比較的に大きく安定して推移していると推論可能である。Fletcherらの分析が明示しているようにコロナ期の信頼の落ちが9年間の間の日本での信頼のわずかな低下に効果を持ったとも考えられる。
さて、ロイターのデータはさらに詳細に分析され、テレビニュースへの関心やニュースそのものへの関心の度合いが多くの国でマスメディアへの信頼を上昇させた一方、ソーシャルメディアのニュース利用は多くの国でマスメディアへの信頼を低下させたことを明示した(上昇した国もあるのだが)。REWB分析の結果はこの結果を厳密に示し、国内での政治的対立が大きいほど信頼が低下する傾向も示していた。
ロイターの長期データの結果はたいへん興味深いものであるが、そのデータはパネルデータではなく、同一人物の中でのマスメディアへの信頼の変化を測定できず、彼らはそれができないことを論文の中でも何度か言及している[3]。これに対してSMPP調査はパネルデータを持つので、彼らの分析では不可能であった分析を本稿では進める。つまり、2年間の間のマスメディアへの信頼の変化において、RQ1(Research Question 1)「誰の信頼が落ちたのか」、RQ2「信頼低下の帰結として各種メディアの利用行動は変化したのか」、を検討する。前者とロイターの分析は類似しているが、後者のような分析は前例がないものと思われる。
2年の間のマスメディアへの信頼度の変化(2023-2025年 mmeddif)を従属変数とする探索的分析を行った(表1)[4]。分析には、変化を説明しうる要因として性・年齢などの人口統計学的要因に加え、社会全体の変化の認識に関わる「この国は民主的に統治されているか」「国の将来の統治に不安がないか」「社会が分断されているという認識はあるか」などに関する2年間の変化を測定した要因を投入した。さらに第二の分析として、23年の各種メディアの接触量が、マスメディアへの信頼変化に対してインパクトを持った可能性を検討した。

表1 マスメディアへの信頼度変化の規定要因
結果はかなり明瞭で、性別や年齢、教育程度、政治知識などの属性によって信頼度の変化が有意に左右されることはなかった(表1モデル1)。他方、国の民主的統治度認知が上昇するとマスメディアへの信頼も上昇した。逆に、この国の分断が深まったと認識するとマスメディアへの信頼は低下した。言い方を変えれば、RQ1への答えは、日本の市民は社会的な属性によって信頼度を変えたのではなく、国の政治的背景の変化の認識とマスメディアへの信頼を連動させて認識していた、ということになる。マスメディアへの信頼とは、そうした国レベルでの政治世界の変化に連動したものだった。
さらに、メディア関連の視聴・接触要因を投入した結果(表1モデル2)を見ると、何ら統計的に有意な要因は観測されていない。2023年に慣習として接触していた新聞閲読、ハードニュース視聴、ソフトニュース視聴、娯楽番組視聴、ネットニュース視聴、SNS接触度、フリー動画視聴、有料配信サービス視聴、掲示板接触度のいずれの特定の視聴形態にも2年の間にマスメディアへの信頼を上げたり下げたりした証拠はない、ということである[5]。
本節では、マスメディアへの信頼度の変化(2023-2025年)を独立変数とし、これが「2025年に測定されたメディア接触行動(複数の従属変数)」の変化と関連があるかどうかを検討する。それはRQ2の「マスメディアに対する信頼低下の帰結として各種メディアの利用行動は変化したのか」という視点からの分析である。このことで、「マスメディアは信頼できないから、もう見ない」という巷間広く出回っている言説について検討することとなる。またさらに、このことで、マスメディアへの信頼が低下した人は接触するメディアの対象を変えているのか、つまり信頼が落ちた「出口」として何らかのメディア・アウトレットに移行する統計的な関連性が見られるのかを探索的に明らかにする。信頼が落ちた人が代替の情報源としてどこに向かうのか、ということである。
まず、従属変数には2025年に測定されたメディア接触行動として次の変数群を設定した。新聞一般ニュース接触度、全国紙ニュース接触度、マスメディアニュース接触度、民放ワイドショー系接触度、LINE利用度、YouTube利用度、X(旧Twitter)利用度、Instagram利用度、Facebook利用度、TikTok利用度。また個別のメディアでのニュース接触として、Yahoo!ニュース接触度、LINE NEWS接触度、SmartNews接触度、ネットニュース系全接触度、動画配信ニュース接触度、ラジオ系音声ニュース接触度、LINEでのニュース接触度、YouTubeでのニュース接触度、X(旧Twitter)でのニュース接触度、Instagramでのニュース接触度、Facebookでのニュース接触度、TikTokでのニュース接触度、SNSでのニュース接触度全体である[6]。
次いで主要独立変数には、前記の2023-2025年のマスメディア信頼度の変化量を投入し、この信頼度の変化によって2025年のメディア接触度が統計的に有意に変化するのはどのメディア接触であるかを特定しようと試みた。言うまでもなく、統制変数として各従属変数に対応する2023年時点のメディア接触行動(ベースライン行動)を投入し、2023年時点のメディア接触行動の水準を統制した上で、信頼度の変化が2025年の接触行動に与える正味の効果を推定する[7]。なお、統制変数には人口統計学的変数(性別、年齢、学歴、雇用状態、主観的階層など)、および居住地域のダミー変数(東京都・兵庫県[8])を投入した。
結果を簡素化したものを表2に示す。2023年のメディア接触度は明らかに全てが統計的に高度に有意であり、2年を隔ててもメディア接触には習慣性があることが明瞭である。ソーシャルメディアであっても慣習は継続している。これらを統制した上で、2年間のマスメディアの信頼度の変化が有意な接触の変化をもたらしたものは3点であった。
まず、マスメディアへの信頼度が上昇すると2025年にはマスメディアのニュース接触度は増大する。信頼の帰結としてもっともな結果である。他方、インターネット系の接触度では2点のみが有意な効果をもたらしていた。1つ目はマスメディアへの信頼度が低下するとYouTubeでのニュース接触度が増大していたこと、2つ目はマスメディアへの信頼度の増大がTikTokでのニュース接触度を増大させていたことである[9]。
ここで注意すべきは、YouTubeでのニュース接触度は頻度的に高く、2025年には「主なニュースの情報源」として挙げた回答者は42%に達する点である。その意味で、YouTube経由のニュース接触度だけがマスメディアの信頼度低下と連動していたことの意味は大きく、さらに検討する価値がある。なお、ニュース接触に限定せず、YouTube一般に対する接触度は68%とさらに多数であるが、こちらの方はマスメディアへの信頼度の変化とは連動していなかった。

表2 マスメディアへの信頼の変化の「出口」としてのメディア利用行動の変化
さて、マスメディアの信頼度を低下させた人がYouTubeのニュースの接触度の変化と具体的にどんな形で結びついているのか、表2の順序ロジット分析の結果から事後シミュレーションによって見える化したものが、図2である。この結果は、マスメディアへの信頼度が低下すると、週4回以上の割合で「YouTubeでニュースを定期的に見ている」数値が直線的に上昇する(図の中での左肩上がりの線)ことを示している。これは2023年のYouTube視聴程度を統制した上での正味の効果である。換言すれば、2年間の間のマスメディアへの信頼度の低下は、週4日以上という慣習的なYouTubeでのニュース接触を行動的な「出口」としており、他のメディア利用でそのような関係性を示した「出口」はなかった。

図2 マスメディアの信頼度の低下の出口としてのYouTubeのニュース
SMPP調査の2023年と2025年両調査の間に日本社会の中ではメディアの役割に関する2つの注目すべき現象があった。2024年の東京都知事選における「石丸現象」と、兵庫県知事選における「立花チャンネル」「切り抜き動画」の現象であり、これらを受けて、インターネットメディア(特にSNS)の影響力が増大したとの指摘が多くあった。このことを背景に、東京都および兵庫県居住者における行動変容の有無を検討しよう。
その分析を行うために、YouTubeのニュース接触度を従属変数とした図2の分析のモデルを拡張し、両地域のダミー変数に加え、マスメディア信頼度の変化×地域ダミーの交互作用項を投入した。マスメディア信頼度の変化が、特定地域のメディア接触行動の変化とどう結びついているかを検討するのである(なお、東京都在住者は全国平均よりYouTubeのニュース接触度は低い)。
結果は図3にみるように、兵庫県に居住する回答者においてのみ、YouTubeを通じたニュース関連情報接触が他地域と異なるパターンを示した(見やすくわかりやすくするため図2と異なり、接触量は平均値で示した)。ここでは、東京都在住者が全国パターンと類似した傾向を示す一方で、兵庫県在住者では、マスメディアの信頼度が低下した人で、信頼の高い人よりもYouTube経由のニュース接触度が他の都道府県とは異なる傾向を示すことが明らかである。つまりマスメディアへの信頼度が低下してもYouTubeのニュースは兵庫県在住者には「出口」となっていないのである。

図3 東京都・兵庫県在住者のYouTube接触量の差異
上記の兵庫県知事選では、年齢の若い人ほどYouTubeの切り抜き動画などを視聴したなどの指摘があるので、上記の分析に年齢との交互作用を加えた分析を行ったが、統計量であるAIC(赤池情報量基準)、BIC(ベイズ情報量規準)、Wald test(ワルド検定)いずれも三次の交互作用は有意にならず、年齢が高いとYouTubeニュース利用は低いものの、マスメディアへの信頼度が低下してもYouTubeニュース利用が増えないのは世代間で共通していた。
ここでの結果が指し示しているのは、マスメディアへの信頼低下を契機としたYouTubeのニュース接触の増大は、日本人の誰にでも起きているという性質のものではなく、兵庫県在住者に見るように、この2年間のYouTube接触経験が媒介しているように思われる。兵庫県在住者ではその接触経験がネガティブなものであったために、YouTubeはマスメディアのニュースの「出口」になっていないと推定される。
上記の推定に関連して、兵庫県在住者の特異性を傍証するデータがSMPP調査にはある。それは陰謀論の支持に関するものである。SMPP調査では2023年にはコロナに関する陰謀論の支持度を測定し、2025年には陰謀論の全般的な支持度を測定している。後者に関しては笹原論文(本報告シリーズ)を参照されたい。同論文では動画系SNSが陰謀論的思考と親和性が高いことも指摘している。
二度にわたる陰謀論の支持度の分布をプロットした散布図を作成すると、兵庫県在住者(赤字)がひどく外れ値の位置にあることがわかる。23年のコロナ陰謀論の支持度は最強クラスであったが、2025年の政治の陰謀論の支持度は最低であった(図4)。

図4 陰謀論信奉度2023-25年の散布図
このことは兵庫県知事選における「ネット選挙」のフェイズにおいてYouTube接触のダントツの上位に立花孝志氏関連のビデオの視聴数が来ていることと関連している可能性があると考えられる(https://netcommu.jp/Report/hyogochijisen2024)。
同知事選の前知事・斎藤元彦候補に対する「二馬力」の応援として自らも出馬した立花氏の大量の動画には「真実」「正義」を旗印にし、デマや誹謗中傷も含めた陰謀論的主張が溢れていたからである。選挙当時にはこうした動画からの動員がネット上で加速することによって結果的に斎藤知事が当選したものの(例: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE29ACA0Z21C24A1000000/ この記事では立花氏の投稿の拡散層には「陰謀論・反ワクチン」層によるものが多く含まれていたことも示している)、SMPP調査2025年はこの選挙の数か月後であり、その時点で立花氏の陰謀論については広く知られるようになっていたものと思われる。一般の市民の幻滅についてのデータは知られていないが、本SMPPデータでの兵庫県在住者の2025年の陰謀論の支持がとりわけて低いことは傍証であるように見える。また立花氏の兵庫県議会の調査委員会のメンバーに対する「裏で動いている勢力」という疑念の言説は立花氏による名誉毀損・中傷問題に発展して2025年11月には捜査・逮捕につながったことはよく知られている。
このことを踏まえて、2025年の陰謀論支持度を従属変数とした分析を行い、兵庫県在住者のパターンが他と異なるかを検討しよう。分析の枠組みは前節と同じだが、従属変数はYouTubeの視聴度ではなく、2025年の陰謀論支持度であり、2023年のコロナの陰謀論の支持度[10]と兵庫県在住者との交互作用、比較対象として東京都在住者の同様の交互作用を独立変数として投入した。
図5はその結果である。全体として、マスメディアへの信頼が低下した人が25年の陰謀論信念の保持に傾いている一方で、兵庫県在住者では陰謀論の非信奉者(標準偏差が-1.5)が他都道府県と異なる信念の変化を示した(交互作用効果は有意)。他地域では、マスメディアの信頼度低下と2025年の陰謀論支持はやや正の関連を示している一方、兵庫ではマスメディアへの信頼度が低下しても、コロナ陰謀論非信奉者は政治的陰謀論への支持が他より低かった(右肩上がりの太線)。もっともマスメディアへの信頼を失った2023年の陰謀論肯定者では2025年に肯定のままである(左肩上がりの太線)ことは、他地域と同傾向であるが、兵庫県在住者ではマスメディアへの信頼が低下してもそれが政治的陰謀論支持につながるのは元々陰謀論的素地を持った人々に限られていた(注10に示したDouglasらの知見とも一貫している)、ということになる。
知事選挙において「ネット選挙」が巨大なインパクトをもたらしたとされているが、この「後味」の悪さが兵庫県では他の地域と異なり、YouTubeのニュース利用を抑制し、陰謀論そのものの支持も激減させているのではないかと思われる[11]。

図5 マスメディアへの信頼の変化と政治的陰謀論信念支持度: 兵庫県在住者に焦点を当てて
以上で見てきた兵庫県在住者の2点の特異性が強く示唆するのは、ここで生じた変化が巷間盛んに喧伝されたように、「SNSのインパクトが(一律に)増した」というシンプルな強力さを表していると言い切ることはできず、「SNSとの(特定地域でーネガティブなー意味を持った)接触経験」がYouTubeという特定のメディア回避につながった可能性である。YouTubeにおける立花氏の公式チャンネル視聴やその切り抜き動画等の選挙時の視聴経験が2025年の接触の減少につながったと推察可能だからである。
このことを踏まえて本論の結論を述べよう。選挙の新しい形が2024年に浸透し始めたことは広く観察されるが、ここで「SNSの強大な効果」や「マスメディアの凋落」だけを強調することは、複合的な効果を見落とすことにもなる。起きているのは、メディアコンテンツによる選別化でもあるのではないか、という点である。
また、X(旧Twitter)ではこのような変化は見られなかった。この差異の一つの要因として、YouTubeの「テレビ化」が背景にあるかもしれない。テレビ画面と同じコントローラを通じてつながる接触媒体として、マス媒体と同列の多チャンネル媒体の一つとして利用が容易であることに注目したい。同じコントローラの中でテレビ媒体もYouTubeも選択可能であり、コントローラという情報機器の持つアフォーダンス[12]から考えて、X(旧Twitter)に対してYouTubeは優位に立っている。このことの意味はよく考えられてしかるべきである。マスメディアへの信頼の低下は、アフォーダンスの似ているコントローラを通じて、選択可能なYouTubeのニュースに移行した可能性を本論の分析は示している。
他方、アフォーダンスは存在しても、それでも兵庫県民がYouTubeのニュースに移行しなかったのは、背景に「陰謀論」の政治的利用に辟易した可能性が大いに推測される。言い方を変えれば、YouTubeと言えどもインターネットの変化の中で内容が何でも優位に立つのではなく、内容で選別される、ということである。その点では「インターネットの強力効果」の中で、利用者による選別という「限定効果」の部分があることを見逃してはならない。
[1]本論と同題名での報告は、2025年9月20日開催の日本社会心理学会における社会心理学会ワークショップ「日本の分断は変化しているのか」においてなされており、本稿はそれを元に再分析・精緻化したものである。
[2]Fletcher, R. et al. (2025) The link between changing news use and trust: longitudinal analysis of 46 countries, Journal of Communication, 75(1),1-15.https://doi.org/10.1093/joc/jqae044
[3]Fletcherらは論文の中でロイターのデータは「パネルデータ」だと記しているが、そこでの「パネル」はネット調査で巷間言うところの「パネルサンプル」(インターネット上で諸種アンケートの協力意向ありとの名目で確保されているモニターのリスト)という意味であって、同一人物に対して時を隔てて複数回測定したという統計学的な意味でのパネルデータではなく、各国各回の調査は独立して実施されている。
[4]分析にあたって計量モデルとして、サンプルウェイトおよびヘックマンモデルに基づくIMR(Inverse Mills Ratio)を併用することで、2年度目のサンプル脱落(attrition)によるパネルデータのバイアスの補正を試みた。具体的には、第一に attritionモデルとして、性別、年齢、学歴、雇用状況、主観的階層を独立変数とした probit 回帰を実行し、その予測結果に基づいて ヘックマン補正項(IMR変数)を作成した。第二に、このIMR変数を含めた上で、サンプルウェイトを適用した回帰分析を行った。しかしattritionモデルの予測力は高くなく、IMR変数投入有無によって推定結果に顕著な違いは見られなかった。このため、最終的な分析では、サンプルウェイトのみを用いた重回帰分析を採用し、その際にはIMR生成時に使用した属性変数も統制変数として回帰式に含めた。ヘックマン補正項を含めた場合と含めない場合で推定結果が大きく変化しなかったことから、本分析の結果はattritionに対して頑健であると判断される。
[5]なお、従属変数を信頼度の差分とせずに2025年のマスメディアへの信頼を従属変数とし、2023年のマスメディアへの信頼を独立変数として投入した分析も行った(表1右側)。これはベースライン(基準点である2023年の信頼度)をコントロールしており、2023年の独立変数群の効果を「変化の予測」と見なすことができる分析である。結果は、年齢の低い方が信頼の低下に結びつく効果が有意に達した以外には、2023年度の統治の不安が高い方が信頼の低下に結びつくことを示したのみであった。民主的統治度認知の効果は有意傾向にとどまった。
[6]これらは基本的には2025年調査Q44で測定され、「主なニュースの情報源」としてチェックされた「ニュース接触」をその接触頻度(週4日以上、週に1日–3日、週に1日未満)によって重みづけした変数を作成したもので、これらを従属変数とした順序ロジット分析を行った。さらに利用の有無だけを検討したのはソーシャルメディアの一群で(Q42)、これらはロジット分析に付した。最後に各種新聞の購読数(Q41)やマスメディアニュースへの全体の接触頻度、ネットニュース全体の接触頻度、SNSでのニュース接触頻度については負の2項回帰分析が適切であったのでこれを用いた。なお、「ニュース接触」の度合いは回答者の主観的判断によるものであり、研究上一般的に「ニュース」と呼ばれる内容が常に念頭におかれているとは限らない。これはデータ取得上の制約でもある。
[7]分析上の留意点として、2025年のメディア接触行動の一部項目は、2023年の対応項目と完全には一致していない。たとえば、2025年には「YouTubeのニュース接触」と「YouTube全体の利用度」の2項目があるが、2023年には後者のみが測定されている。そのため、2025年のニュース接触度の回帰分析では、2023年のYouTube利用度を近似変数として投入している。
[8]これら地域変数については後の説明を参照されたい。
[9]後者は頻度的には7人に1人のみのニュース接触であるので、統計的に不安定である可能性は捨てきれず、またマスメディアへの信頼の増大と正の関連性を持っていたので、ここではさらなる検討の対象とはしない。
[10]2023年データには陰謀論を測定する質問はなく、代わりに当時問題になっていたコロナ関連の陰謀論を代替的に投入する。ある陰謀論を支持する人は他の陰謀論も支持しやすいことが知られているため、この投入は意味がある(Douglas et al., 2017他)。なお本データの陰謀論間の相関は個人レベルで0.093(p<.001)、都道府県レベルで0.132であった。
Douglas, K.M., Sutton, R. M., Jolley, D., & Wood, M. J. (2017). The psychology of conspiracy theories. Current Directions in Psychological Science, 26(6), 538–542. https://doi.org/10.1177/0963721417718261
[11]後味の悪さは、2025年7月の参院選兵庫県選挙区の立花氏の得票率にも表れていると思われる。5.9%の率で7位であった。
[12]アフォーダンスは、人間の行動を環境の側で制約する(容易くさせたり難しくさせたりする)構造的要因であり、その重要性はドン・ノーマンの古典『誰のためのデザイン?――認知科学者のデザイン原論』(2015年邦新訳、新曜社。第一版は野島久雄訳、新曜社、1990年)や東大出版会『知の生態学の冒険』(9巻シリーズ、2022-23)などでも明らかである。