「私生活志向の低下は何を意味するか」小林哲郎

2026.01.16
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小林哲郎
早稲田大学政治経済学術院 教授
東京都出身。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(社会心理学)。専門は政治コミュニケーション、政治心理学、世論研究。国立情報学研究所、香港城市大学を経て現職。

日本には政治への関与を避ける人々が数多く存在する。2023年3月に実施された第1回スマートニュース・メディア価値観全国調査(以下、SMPP調査)では、約4割の回答者が「私と政治との間に何の関係もない」という質問項目に「そう思う」「ある程度そう思う」と、肯定的に回答した。「政治的なことにはできればかかわりたくない」という項目への肯定的回答(「そう思う」「ある程度そう思う」)は45%を超えている。たとえば税制の変更が政治への関与の有無にかかわらずすべての国民に影響するように、政治との間に何の関係もないという人は実際には存在しないが、積極的に政治から距離を取ろうとする人々は多い。

第1回SMPP調査の分析からは、こうした政治への関与を避ける傾向、すなわち私生活志向の高い人々は政治的に無色透明な存在ではなく、一定の方向性を持った政策態度を示すことが明らかにされた(小林,2024)。政治非関与傾向の強い人は、政治参加や政治的知識のレベルは低い一方で、政権に対する評価は高かった。また、公助の重要性認知が低い一方で、自助努力を重視する傾向が見られた。

さらに、政治非関与傾向が強い人は、治安を重視するために個人の権利やプライバシーを制限することに賛成する傾向が見られた。一方、道徳教育の推進については政治非関与傾向と関連は見られなかった。これは、政治非関与者は、治安という私生活にとって重要な問題には反応する一方、私生活への影響の少ない道徳教育については反応しないためだと思われる。政治非関与者が治安維持のために「法と秩序」を優先する傾向は、保守的なイデオロギーとは無関係に生じており、政治への関与を避ける人々の間では「イデオロギーなき権威主義」が広がっている可能性が示唆された。

私生活志向とは、「政治という公共的なものに対する能動性、対.反能動性の軸を表す」(池田, 2007: 211)。私生活志向概念には、政治非関与と私生活強調という2つの下位概念が想定されており、両者ともに政治的領域からの距離を表すが、前者は政治的なものの忌避、後者は非政治的な私生活の重視にウェイトが置かれている。関連概念との関係や私生活志向にかかわる先行研究の知見は小林(2024)を参照されたいが、第2回SMPP調査では、第1回と同様に以下の項目で政治非関与が測定された。

政治とは自分から積極的に働きかけるもの(反転)
政治とは監視していくもの(反転)
政治とは、なるようにしかならないもの
政治的なことにはできればかかわりたくない
私と政治との間に何の関係もない

これらの5項目は「まったくそうは思わない」から「そう思う」までの4件法で測定されており、反転尺度の方向を考慮した上で平均値をとることで尺度として用いられた。値が大きいほど、「自分と政治には関係がないし、できれば政治的なものとは関わりたくない」という政治非関与傾向が強いことを表す。

第1回調査の知見の頑健性の確認

前述の第1回調査の知見は、第2回調査においてどの程度頑健に再現されるだろうか。まず、政治非関与傾向を従属変数として、性別や年齢などの基本的なデモグラフィック変数を独立変数とした回帰分析の結果を、第1回と第2回調査を並べて提示したものが表1である。なお、ここでは第2回のフレッシュサンプル(非パネルサンプル)を用いている。

表1 私生活志向(政治非関与)を予測する回帰モデル

第1回では、女性であるほど、若年であるほど、学歴が低いほど、主観的階層が低いほど、文化資本(家にある漫画や雑誌以外の書籍の数で測定)が乏しいほど、政治非関与傾向が強いことが示された。第2回の調査でもこの傾向はほぼ一貫している。主観的階層のマイナスの係数が有意ではなくなった以外は一貫した結果である。政治非関与者がどのような特徴を持っているかについては、第1回から第2回にかけて変化は見られなかったといえるだろう。

次に、「イデオロギーなき権威主義」についても再検討しよう。「治安を守るためにプライバシーや個人の権利が制約されるのは当然だ」という項目は、第1回と同様に測定された。一方、道徳教育の推進項目は第2回調査では測定されなかった。代わりに、道徳教育の推進のようにほとんどの回答者の私生活に直接影響しない保守的な争点として、「首相は、靖国神社に参拝するべきだ」を用いる。第1回調査の分析と同様に、これらの争点態度を従属変数とし、表1の独立変数に加えて、イデオロギー(値が大きいほど保守)と私生活志向(政治非関与)を投入する。表2に推定の結果を示した。

表2 争点態度を予測する回帰モデル

私生活志向(政治非関与)は、首相の靖国参拝に対しては有意な効果を示さなかった(モデル1)。一方で、プライバシーや権利の制限に対しては、正の有意な効果が確認された(モデル2)。靖国参拝は、道徳教育の充実と同様に、イデオロギー的に保守であるほど支持が高まる争点であるものの、私生活への直接的な影響が比較的小さい。そのため、政治非関与との関連は見られなかったと考えられる。これに対し、治安は私生活と密接に関わるため、政治非関与傾向が強い人ほど、プライバシーや権利の制限に賛成する傾向が示された。この結果は、第1回調査の知見を再現するものである。さらに、モデル3では、イデオロギーと政治非関与の交互作用が統計的に有意であった。この交互作用を図示したものが図1である。

プライバシーや個人の権利制限への賛成

図1 プライバシーや権利の制限への支持とイデオロギーの関係

政治非関与傾向が低い回答者(図1中の青いグラフ)は、右肩上がりの回帰直線を示している。これは、保守的なイデオロギーを持つ人ほど、治安のためにプライバシーや個人の権利の制限を受け入れる傾向を示している。一方、政治非関与傾向の強い回答者(図1中の赤いグラフ)は、右肩上がりの傾向が弱く、ほぼフラットである。さらに、予測値はプライバシーや権利の制限に対する賛否の理論的中点である0.5よりも上に位置している。このことは、政治非関与傾向の強い人は、リベラルか保守かというイデオロギーに関係なく、プライバシーや権利の制限に賛成する傾向があることを示している。これは第1回調査の結果を再現している。

さらに、第1回調査では含まれていなかった、デモに対する嫌悪を用いた分析を行う。政治的デモは非投票政治参加の一種であるが、日本ではデモに対する忌避感が強いことが知られている(Kobayashi et al., 2021)。デモは公道を用いたり、駅前などの公共の場で拡声器を用いたりすることもあり、私生活に対する影響があり得る。実際、デモが嫌いな人々の声には「迷惑だから」という理由が挙げられることも多い。したがって、デモ嫌いを従属変数とした場合には、道徳教育の充実や首相の靖国参拝とは異なり、プライバシーや権利の制限への支持と同様の結果になることが予想される。「デモや抗議活動は社会を不安定にする」と「デモや抗議活動は社会の健全さの表れである」という両極を持つ尺度において、前者に近いほどデモに対する否定的な態度を表している。ここでは、値が大きいほど、デモに対する否定的態度が強い形で尺度を作成した。表3は、表2のモデル2と3と同じ推定を行った結果であり、図2は表3のモデル2をベースに交互作用を図示したものである。

表3 デモに対する否定的態度を予測する回帰モデル

 

図2 デモに対する否定的態度とイデオロギーの関係

政治非関与傾向はデモに対する否定的態度と関連しており(モデル1)、さらにイデオロギーとの有意な交互作用を示している(モデル2)。図2より、この交互作用は図1と同様のパタンであることがわかる。政治非関与傾向が弱い人(青いグラフ)の場合、イデオロギーが保守的であるほどデモに対する否定的態度が強く、リベラルであるほど否定的態度が弱い。つまり、政治非関与程度が弱い人の場合は、デモに対する態度がイデオロギーに規定されている。

しかし、政治非関与傾向が強い人(赤いグラフ)の場合は、イデオロギーによってデモに対する態度が影響を受けない(赤いグラフの傾きはほぼフラット)。しかも、デモに対する態度は理論的中点である0.5よりもやや上にあり、どちらかと言えば否定的な意見が多い。中点からの乖離はあまり大きくないように見えるかもしれないが、これは最もイデオロギー的に保守的な人と同じ程度のレベルである(図2の右端で、最も保守的な人が政治非関与傾向の強い人に「追いつく」)。したがって、政治非関与傾向の強い人は、イデオロギーに関係なく、デモに対する否定的態度が強い傾向がある。このことは、政治非関与傾向の強い人の間では、プライバシーや権利の制限への支持とイデオロギーの関係が消え、イデオロギーに関わらず賛成が多くなることと一貫している。すなわち、第2回調査においても、政治非関与傾向が強い人は「イデオロギーなき権威主義」的傾向を示している。

第1回調査からの変化

私生活志向の下位概念である政治非関与傾向の特徴に、第1回調査からの大きな変化は見られなかった。しかし、政治非関与傾向のレベルそのものは一貫して低下していることが明らかになった。図3は、政治非関与傾向を測定する個々の項目の、第1回調査(W1)と第2回調査(W2)の分布を示したものである。いずれの項目でも、政治非関与傾向が低下傾向にあることがわかる。たとえば、第1回調査で40%の人が賛成(「そう思う」または「ある程度そう思う」)した「私と政治との間に何の関係もない」という項目に対する賛成率は、第2回調査では35%程度に低下している。

 

図3 政治非関与傾向の第1回調査からの変化

第1回調査のデータと、第2回調査で新たにランダムサンプリングされたフレッシュサンプルを比較すると、政治非関与傾向(レンジは0から1)のウェイト付き平均値は、第1回は0.470であったのが第2回では0.441まで低下している。

第2回調査には、新たにランダムサンプリングされたフレッシュサンプルに加えて、第1回調査の回答者に再度調査を実施したパネルサンプルが含まれていた。このパネルサンプルを用いることで、政治非関与傾向の個人内の変化を探ることができる。パネルサンプル、つまり第1回と第2回の両方に回答した人だけで比較すると、第1回では0.473であったのが第2回では0.445まで低下しており、対応のあるt検定を行うと有意な差がみられる(t(1318) = 6.24, p < .001)。必ずしも大幅な低下ではないものの、全体としては低下傾向にあることが示唆される。

小林(2024)では、第1回調査のデータを分析して、2000年代と比較すると私生活志向が上昇傾向にあることが指摘されたが、第2回ではやや低下している。これが長期的な低下傾向を表しているのかどうかは今後の継続調査を待つ必要があるが、ここでは第1回から第2回にかけて政治非関与傾向が低下した人の特徴を分析することで、低下の理由の手掛かりを探索してみたい。

私生活志向が低下したのは誰か?

第2回調査での政治非関与得点から第1回時の政治非関与得点を引き算することで、第1回から第2回にかけての変化を測定することができる。値が大きいほど、政治非関与傾向が上昇したことを意味する。この政治非関与得点の差分を従属変数として、これを予測する変数を探索的に検討する。まず、性別や年齢などのデモグラフィックな変数は予測力を持たなかった。つまり、性別や年齢などの人口学的な変数で特徴づけられる特定のセグメントで私生活志向が低下しているわけではない。次に、第1回で測定された変数で政治非関与傾向の変化を予測するモデルを探索すると、内的有効性感覚が低いほど、「誰が政権を担うかでそんなに違いはない」と考えている人ほど、またマスメディアに対する信頼が低いほど、政治非関与傾向が低下する傾向が見られた。

内的有効性感覚とは、政治を理解し、参加する能力が自分に備わっているという感覚であり、「自分には政府のすることに対して、それを左右する力はない」(反転)、「政治とか政府とかは、あまりに複雑なので、自分には何をやってるのかよく理解できないことがある」(反転)という2項目で測定された。つまり、第1回調査の時点で、「自分には政治は難しすぎてわからない」とか「誰が政権を担っても同じだ」と考えていた人ほど、第2回にかけて政治への関与を強める傾向にあったことが示唆される。同様に、第1回調査の時点でマスメディアに対する信頼が低かった人ほど、政治への関与を強める傾向が見られた。

さらに、第2回で測定された他の変数と政治非関与傾向の変化量の関係を見ると、政治非関与傾向が第1回から第2回にかけて低下した人ほど、石破茂や野田佳彦、小池百合子、日本維新の会、日本共産党に対する感情温度が低く、社会におけるイデオロギー的対立を強く認識している傾向が見られた。これらの結果だけから結論を導くことはできないが、既存政党や既存体制を代表するとみなされやすい政治家に対する評価が低い層で政治に対する関与が強まっているのかもしれない。

なお、第2回調査は2025年1〜3月実施であるため、2025年7月の参院選で勢力を伸ばした参政党への支持はいまだ低かったことからも示唆されるように、既存システムに対する反感や反発をうまく測定できていない可能性があることに留意されたい。

また、大森(2024)によるメディア利用パタンの類型ごとに政治非関与傾向の変化量を検討したところ、大きな違いは見られないものの、SNS中心型やインターネットメディア中心型(SNS優位)で、他の類型よりも政治非関与傾向の低下が大きくなる傾向が見られた。これらの知見は探索的・示唆的なものにとどまっているため、今後の詳細な分析を待つ必要があるが、マスメディアも含めた既存の政治制度に対する不満を強く持つ層がSNSの利用を通して政治に対する関与を強めている可能性が示唆される。

私生活志向の低下は何を意味するか

第2回調査の分析の結果、私生活志向の下位概念としての政治非関与の性質そのものに第1回調査からの大きな変化は見られなかった。政治非関与傾向を規定する要因に変化は見られず(表1)、私生活と関連するイシューにおいて、イデオロギーとは無関係に権威主義的な傾向を見せる点も一貫していた。このことは、第1回調査の結果がたまたま得られた例外的なものではなく、頑健で再現可能な結果であることを示している。

政治に関与しない人は、政治過程に何らインプットしない政治的に無色透明な存在なのではなく、一定のはっきりとした政治的傾向を有している。政治と自己を切り離し、私生活を重視する人々は、むしろ私生活を重視するがゆえに、イデオロギーとは無関係に権威主義的な態度を示すことがある。こうした人々が何らかのきっかけで投票参加をするようになると、保守的なイデオロギーへのアピールが効果を持たない場合であっても、治安などの私生活に直結するイシューにおいて権威主義的な政策を支持することで、一定の政治的インパクトをもたらすようになることが予想される。

長期的に上昇傾向にあるかに見られた政治非関与傾向は、第1回から第2回にかけて低下する傾向が見られた。どのような層で政治非関与傾向が低下したのかについて探索的に分析したところ、第1回時点で自分は政治を理解して参加する能力に欠けていると感じていたり、誰が政権を担うかで違いはないと感じていたり、マスメディアに対して不信を抱いている層で低下の度合いが大きいことが示唆された。

また、第2回時点で既存政党や政治家に対する評価が低く、SNSを政治的情報源として積極的に利用している層で政治非関与傾向の低下幅が比較的大きい傾向も見られた。これらの結果は、従来政治的に周辺化(marginalize)されていた層が、経済的苦境など何らかの要因によって政治に目を向けるようになり、政治的関与を強めていることを示しているのかもしれない。第2回調査後の2025年参院選で見られたような参政党など新興保守政党の躍進、既存政党への拒否感などとの関連を深く分析していく必要がある。


引用文献

  • 池田謙一(2007).私生活志向のゆくえ:狭められる政治のアリーナ.池田謙一(編)『政治のリアリティと社会心理:平成小泉政治のダイナミクス』(pp. 201–228).木鐸社.
  • 大森翔子(2024).人々はメディアをどのように利用しているのか.池田謙一・前田幸男・山脇岳志(編)『日本の分断はどこにあるのか:スマートニュース・メディア価値観全国調査から検証する』(pp. 73–103).勁草書房.
  • 小林哲郎(2024).私生活志向は何をもたらすか.池田謙一・前田幸男・山脇岳志(編)『日本の分断はどこにあるのか:スマートニュース・メディア価値観全国調査から検証する』(pp. 143–172).勁草書房.
  • Kobayashi, T., Miura, A., Madrid-Morales, D., & Shimizu, H. (2021). Why are politically active people avoided in countries with collectivistic culture? A cross-cultural experiment. Journal of Cross-Cultural Psychology, 52(4), 388–405. https://doi.org/10.1177/00220221211008653