笹原和俊
東京科学大学環境・社会理工学院教授
1976年福島県生まれ。2005年東京大学大学院総合文化研究科修了。博士(学術)。専門は計算社会科学。主著に「フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ」(化学同人)、「ディープフェイクの衝撃 AI技術がもたらす破壊と創造」(PHP研究所)がある。
近年、陰謀論が社会問題として注目される場面が増えている。選挙や感染症、国際情勢など、社会的不安が高まる局面では、「本当のことは隠されている」「裏で誰かが操作している」といった見方が、SNSを通じて拡散しやすい[1]。こうした陰謀論は、単なる個人の思い込みにとどまらず、政治やメディアへの不信を媒介として、社会的分断を加速させるのではないかと懸念されてきた。
このような「陰謀論×分断×SNS」の複雑な関係性について理解を深めるため、私と松尾朗子氏(東京大学)は、第2回スマートニュース・メディア価値観全国調査(以下、SMPP2025)のデータを分析し、2025年度日本社会心理学会において研究発表を行った。本稿では、その分析結果をもとに、「動画系SNSでニュースを見る人ほど、陰謀論的思考が強い傾向が見られる」という知見に焦点を当て、その背景と含意を整理した上で解説したい。
陰謀論とは「社会の重要な出来事が、悪意ある秘密の勢力によって裏で操作されていると信じる考え方」を指す。重要なのは、陰謀論が単なる誤った知識や事実誤認ではなく、世界をどう理解するかという認知の枠組みと結びついている点である[2]。
現代社会は、経済、政治、技術が複雑に絡み合い、因果関係が見えにくい。しばしばVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)と表現されるこのような不確実性は、人々に不安や無力感をもたらす。さらに、政治やメディアに対する不満や不信も、人々を陰謀論に向かわせる。陰謀論は、そうした複雑な現実を、「敵」と「味方」という分かりやすい対立構造に置き換えることで、理解可能な物語に変換する機能を持つ。誰が悪いのか、誰と戦えばよいのかを明確にする点で、心理的な納得感を提供してしまうのである。
この点を理解する上で参考になるのが、縄田氏らによる「敵-味方分断思考(Friend–Enemy Divided Thinking)」の研究である[3]。これは、社会や国際関係を「自分たちの側(味方)」と「脅威となる相手(敵)」という二分法で捉える認知傾向を指す。この研究では、この二分法傾向が強い人ほど、陰謀論的信念を持ちやすく、国際問題や移民、国防に対して脅威を強く感じやすいことが知られている。つまり、主観的に「分断」を強く認識している人ほど、実際以上に対立構造を見出しやすく、陰謀論を受け入れやすい可能性がある。
SMPP2025における私たちの分析でも、類似した結果が得られた。今回質問した11の社会問題について内容の近いものをグルーピングし、そのうち「家族制度の改革」と「強い国家観」に着目して、これら2つと「敵か味方か」思考との関係を調べた。その結果をまとめたものが表1である。「敵か味方か」思考がこれらの問題と最も強く関係し、この思考が強い人ほど、選択的夫婦別姓や同性婚といった家族制度の改革に否定的であり、防衛力の強化や憲法改正といった強い国家観を支持する傾向が見られた。

表1 「敵か味方か」思考と社会問題への態度
(注:重回帰分析の標準化係数が正で有意な場合は〇、負で有意な場合は×と簡略的に表記。有意差がない場合は、空欄)
さらに、「敵-味方」思考、政治的イデオロギー、連帯志向(道徳的価値観)の3つが、「家族制度の改革は肯定的だが、強い国家観には否定的」という一貫した傾向を見せた(注:道徳的価値観の詳細については、前回調査の記事を参照)。社会的分断の仕組みを理解する上で、これらの3つがどのような性質の社会問題に対して類似・相違の反応をするのかは、今後の調査でさらに検討する必要がある。
先述した通り、陰謀論が複雑な現実を「敵」と「味方」という対立構造の物語に置き換えるものであるならば、陰謀論的思考とは、そのような枠組みで世界を理解しようとする特有の心の癖を指す。その意味で、「敵-味方」思考はその土台となる認知スタイルの1つと言える。そして、それはネット上の議論だけでなく、現実の政策に対する態度をも硬直化させ、社会的分断を深める要因となりうる。
では、陰謀論的思考は、どのような情報環境と結びついているのだろうか。今回の調査では、ニュースの主な入手先と陰謀論的思考の関係についても分析を行った。陰謀論的思考は、具体的には「一般の人には決して知らされない、とても重大なことが世界で数多く起きている」「政治的な決定に強い影響力を与える秘密の組織が存在する」といった5つの問いへの同意度を測定する[4]。その平均値を「陰謀論スコア」として算出した(図1)。

図1 新聞でニュースを読む人と動画サイトでニュースを見る人の陰謀論スコアの分布
全体平均は3.5点だったが、ニュースを得る媒体によって明確な差が見られた(表2)。YouTubeやTikTokなど、動画系SNSでニュースを週4日以上見る人では平均3.7点と高く、新聞(紙・電子版)を主に読む人では平均3.3点と、相対的に低い値を示した。さらに、年齢や性別などを統制した分析においても、動画系SNSの利用は陰謀論スコアに正の影響を、新聞やテレビの利用は負の影響を持つことが確認された。一方、X(旧Twitter)などテキスト中心のSNSや一般的なネットニュースでは、有意な差は見られなかった。他のメディアではなく、動画系SNSでニュースを見る人ほど陰謀論的思考の傾向が高いのである。

表2 メディア種類と陰謀論スコアの関係
(注:重回帰分析の標準化係数が正で有意な場合は〇、負で有意な場合は×と簡略的に表記。有意差がない場合は、空欄)
ここで重要なのは、問題が「新聞か、SNSか」という単純な対立ではない点である。鍵となるのは、情報の形式(フォーマット)である。新聞を読む行為は、文章を追い、文脈を理解し、論理の整合性を考える能動的なプロセスを伴う。これに対し、動画、とりわけSNS上で短時間で次々に再生される動画は、受動的に視聴されやすく、感情への訴求力が高い。文字を読むことが論理的・熟慮的な思考(システム2)を促すのに対し、映像と音声からなるマルチモーダル(複数感覚的)な動画の視聴は、直感的・感情的な思考(システム1)を刺激しやすい[5]。陰謀論は「怒り」や「不安」を燃料とするため、この直感的なモードと非常に相性が良いのである。
多くのSNSでは、利用者の関心を引きつけ続けるために、推薦アルゴリズムが用いられている。特に動画系SNSでは、刺激的で感情を喚起しやすい内容ほど再生されやすく、その結果、怒りや不安を強調する陰謀論的コンテンツが連鎖的に提示されやすい環境が生まれる。これは、いわゆるフィルターバブルやエコーチェンバーを形成し、特定の世界観を強化する方向に働く危険性がある[1]。
陰謀論が先か、分断が先か。鶏と卵の問題のように、両者は循環している。ここまでの結果は、陰謀論と社会的分断が、個人の性格や知識不足、社会的状況のみから生じるものではなく、情報環境の構造と深く結びついていることを示唆している。動画系SNSに触れることで感情的な情報が増幅され、陰謀論的な世界観が強化される。その世界観が「敵か味方か」という認知を強め、社会的分断を拡大する。さらに、その分断が陰謀論を受け入れやすくする。こうした悪循環が生じている可能性がある(図2)。
ただし、重要なのは動画メディアや動画系SNSそのものを否定することではない。動画は教育や情報伝達において有用な側面も多く持つ。問題は、特定の形式に情報摂取が偏り、その結果として接触する情報内容までが偏ってしまう点にある。私たち一人ひとりが、異なる形式のメディアを意識的に使い分けること、例えば、動画で関心を持ったテーマを、新聞や長文記事で改めて確認することは、この悪循環を緩和する一つの手がかりになりうる。
新聞やテレビを主なニュースの情報源として利用する人ほど陰謀論的思考が弱い傾向が見られたことは示唆的である。これらのメディアは、取材や編集を通じて複数の視点を提示し、即時的な刺激よりも検証過程を重視する仕組みを備えている。デジタル社会において健全な判断力を保つためには、情報の正誤だけでなく、どのような形式で、どのような環境から情報を受け取っているのかを意識することが重要である。偏った情報環境から得られた知は、私たちの社会認識を気づかないうちに歪めてしまう。
「陰謀論×分断×SNS」の問題は、特定の人々の問題ではなく、現代社会に生きる誰もが直面しうる課題である。さらなるデータ分析と今後の調査を通じて、この問題の構造を明らかにしたい。
参考文献
[1]笹原和俊『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』 (化学同人, 2021).
[2]秦正樹『陰謀論: 民主主義を揺るがすメカニズム』 (中央公論新社, 2022).
[3]Nawata, K., Fujimura, M. & Oga, T. Friend–enemy divided thinking from the perspective of intergroup conflict: Relationship with international attitudes and conspiracy beliefs. SAGE Open 14, (2024).
[4]眞嶋良全. 日本語版陰謀論的心性質問票の開発と妥当性の検討. 社会心理学研究 40, pp.35-45 (2024).
[5]Kahneman, D. 『ファスト&スロー: あなたの意思はどのように決まるか?』 (早川書房, 2012).