メディアリテラシーは「命に関わる能力」
ゲーム感覚で子どもたちに学びを

2024.03.11
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インターネット上に、洪水のように情報があふれる現代社会。当たり前のようにスマートフォンを持つようになった子どもたちは、誤った情報や悪意のある偽情報のリスクに常にさらされています。
情報の真偽を見極め、正しい情報にアクセスできる「情報リテラシー」の能力がますます重要になる中、その基本を子どもたちが楽しみながら、しっかり学べるツールをつくりたい。そんな想いから、私たち日米の大学生でつくる「Classroom Adventure」は、まったく新しいメディアリテラシー教育プログラム“レイのブログ” を開発しました。

今井 善太郎
Classroom Adventure 共同創業者、慶應義塾大学総合政策学部在学中 / 株式会社YOMY COO

2001年、東京生まれ。中学卒業後カナダへ渡り19歳まで暮らす。現地小学校でのインターン経験などから教育に興味を持ち活動する。2022年にGoogleが主催するファクトチェックの世界大会”Youth Verification Challenge”で日本優勝、世界4位。同じ大学の研究室から一緒に大会に出場した3人でClassroom Adventureを立ち上げる。

災害・選挙・紛争……世界にあふれる偽情報

世界経済フォーラム(World Economic Forum)は、2024年1月公表の報告書で、直近2年間で国際社会にとって最も懸念されるリスクとして、「誤情報・偽情報」を挙げました。11月のアメリカ大統領選をはじめ、主要国で大きな選挙が予定される中、改ざんされた情報と社会不安が結びつくと大きなリスクになる、としています。(https://www.weforum.org/publications/global-risks-report-2024/)

ダボス会議で発表された「Global Risk Report 2024」より(Global risks ranked by severity over the short and long term)

紛争や選挙、そして災害など誤情報・偽情報の拡散は、人命にも関わる深刻な問題となります。日本でも、2024年1月の能登半島地震で、偽の救助要請など多数の誤情報・偽情報がSNSなどを通じて広がったことは、記憶に新しいところです。

私たちClassroom Adventureのメンバーも参加する「日本ファクトチェックセンター」をはじめ、ネット上のデマや誤情報の対策に取り組む活動は日本でも多岐にわたっていますが、膨大な情報に対してマンパワーが追いついていないのが実情です。もっとも大切なのは、市民一人ひとりが偽の情報に立ち向かい、真偽を見極めるスキルを身につける、つまり、メディア情報リテラシーの能力を養うことだと、私たちは考えています。

現在、世界の総人口の6割超がインターネットを利用していますが、多くの人々は正しいメディア情報リテラシー教育を受けているとは言えません。メディア情報リテラシーの重要性について、国連教育科学文化機関(UNESCO)も世界的な課題として、次のように指摘しています。

「信頼性が高く、事実に基づいた情報へのアクセスは、命を救う可能性のある決断を下し、社会のあらゆる分野に参加するために極めて重要である。それは民主主義の重要な柱であり、気候変動であれ、移民であれ、私たちが直面するあらゆる大きな問題に対処する能力の中心である。そのため、私たちが飲む水や呼吸する空気と同じように、公共財として扱われなければならない」

Access  to  reliable  and  fact-based  information  is  crucial  for  making  potentially  lifesaving  decisions  and  participating in all areas of society. It is a critical pillar of democracy and central to our ability to address every major issue we face, whether it be climate change, migration. As such, it must be treated as a public good, in the same way as the water we drink and the air we breathe. UNESCO. 〈2021〉. Literate Citizens Think Critically , Click Wisely.)

「つまらない」授業ではなく、楽しく実践できる“レイのブログ”

メディアリテラシー教育をめぐっては、欧米諸国をはじめ、日本でも学校現場などで取り組みが始まっています。しかし、実際に中学や高校でメディアリテラシーの授業を受けたことがあるClassroom Adventureの学生メンバーからは、「つまらなかった」という感想が多く聞かれました。授業によっては、「(SNSは)子どもにはまだ早い」「Wikipediaはウソしか書いていないから絶対使うな」といった、乱暴な内容も一部に見られました。

Classroom Adventureという名前は、いつもは硬い雰囲気のClassroom(教室)の中でも楽しくAdventure(冒険)をできるように、という想いでつけました。メディアリテラシーは生まれつき備わっている能力ではないので絶対に学ばないといけない。だったら、最高に楽しくして誰でも学べるようにしよう。そうして誕生したのが“レイのブログ”です。

レイのブログのプレイ画面

この教育プログラムは、「ゲーム」と「レッスン」の2つで構成されています。

まず、「ゲーム」パートは、誰にでも親しみやすいアニメの物語形式で進んでいきます。ゲームは、プレイヤーが中学時代にタイムスリップし、「レイ」と名乗る謎の人物から挑戦状を受けとるところから始まります。レイが残した謎のブログが見つかりますが、なぜか、ほとんどがウソの内容ばかり。プレイヤーたちは実際にインターネットを使って正しい情報を調べ、真偽を判断していきます。その作業を繰り返すことによって、レイの正体に迫るヒントが与えられ物語が進む――という仕掛けになっています。

渋谷外語学院での授業の様子。 スマホを使って謎解きを進めている。

プレイヤーはゲームをプレイする中で情報を疑う力や、それぞれのメディア(ショート動画やSNS)の特性などを自然と身につけ、またGeopoint Location(画像分析)をはじめとした専門的・実践的なスキルにふれることができます。

続く「レッスン」パートでは、講師がリアルでレクチャーを通して、ゲームで遊んだ内容が現実の世界で起きている誤情報・偽情報の事例と、どのように関連しているかを学んでいきます。実際のレッスンでは、フェイク情報が生まれる背景などを理解する題材として、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナで偽情報が拡散したケースなどが使われました。

「楽しさ」「安全性」「クリティカルシンキング」 未成年に配慮したプログラム

レイのブログを開発するにあたって、私たちは三つの特徴にこだわりました。

まず、最も意識したのが「楽しさ」です。固くなりがちなメディアリテラシーというトピックを親しみやすくし、本当の意味での学びにつなげるため、誰しもが楽しめるゲームやアニメの要素を取り入れました。学生たちは、ゲームを楽しみながら物語の謎を解いているうちに、誤情報への向き合い方を自然と学んでいきます。

レイのブログ トップ画像より

 

説明動画(Classroom Adventure YouTube):

5分でわかる!「レイのブログ」| メディアリテラシー向上プログラム

二つ目は「安全性」です。プログラムの中で参加者は、実際にインターネットを駆使してレイのブログの中の誤・偽情報を見抜き、一次情報や正しい情報を探し出します。ここでは、SNSやショート動画プラットフォームなど、実際に誤情報が拡散されるような場面をシミュレーションしています。

ただ、現実社会では、政治や災害などセンシティブな内容や、未成年にとって刺激的な内容を含むフェイク情報も少なくありません。そこで、レイのブログでは状況や手順のリアリティは保ちながら、教室での授業にふさわしいよう、政治性や未成年に不適切な内容を排除するなど「安全性」に配慮して問題を設定しています。

実際にゲームで扱うトピックは以下の通りです。(最新の状況に合わせて、3カ月に一度アップデートを行っています。*以下トピックは、2024年2月時点のもの)

ディープフェイク・チープフェイク

一次情報の探し方

TikTok等のショート動画における誤情報

Geo-point Location (画像や動画から情報を特定する)

SNSやメディアごとの情報の特性、バイアスについて

三つ目の特徴は、「クリティカルシンキング」です。

重要なのは、スキル以前に、情報に対する向き合い方、自分の中のマインドセットです。

レイのブログでは、①疑う、②調べる、③判断するーーという三つのステップを何度も繰り返すことで、ファクトチェックの基本的なマインドセットである、クリティカルに物事を見る力(クリティカルシンキング)を定着させます。

また、レッスン・パートでは、フェイク情報を実際に作ってみることで、どんな人がどういった意図でフェイク情報を拡散するのかを理解し、誤情報への耐性を身につけます。

「“情報を違う角度から見る”という、これまで知らなかった情報の見方を学べた」

レイのブログは2023年のローンチ以降、日本の中学校からアメリカの大学まで、幅広く利用されています。また、様々な教育機関(中学校・高校、言語学校など)での授業や単独イベントなどを開催し、「こんなに楽しい授業は、3年間ではじめて!」「情報を違った角度から見るという、これまで知らなかった情報の見方を学べた。家族にすぐに話した」など、ポジティブな反応を多数いただきました。

目白大学メディア学部での授業の様子。 グループで課題を進める。

以下に、体験した方々からのコメントを一部ご紹介します。

「学生が受動的ではなく、能動的に動くことで知識もつき、今後の情報に対する意識づけにもなると思いました。今回、読む力、話す力だけでなく、日本で生活する上で、トラブルに合わないように、困った状況に陥らないようにするための、注意喚起にもなったことはかなり大きい貴重な要素だったと思います」(渋谷外語学院・教師)

「(生徒たちが)圧倒的に食いついていた。きっと飽きちゃうだろうと思っていたが、休憩時間も返上するほど生徒たちがのめり込んでいた」(私立佼成学園・教師)

「最初はゲームを楽しく遊んでいただけだったが、レッスンを受けたら『こんな意味があったのか!』や『こんな危険があるのか』とどんどん疑問が回収され深く心に残った」(米カリフォルニア大学・学生)

国際ファクトチェック・ネットワーク加盟団体であるAnnie Labを主導している、香港大学 ジャーナリズム・メディア研究センター 教授 鍛治本正人氏からは「このゲームをするのは、私の教室でただ座っているよりずっと楽しいと思います。そして、このゲームについて私が本当に良いと感じていることの一つは、政治的に微妙な問題に関与したり、デリケートな話題について激しい議論をしたりすることなく、生徒たちがとても安全に学べる環境を提供していることです。楽しくて魅力的であると同時に、授業に適しています」という感想をいただいています。

高校生・大学生5000人の「ファクトチェック」大会、今秋開催

ここまでレイのブログがいかにメディアリテラシー教育に適しているかをお伝えしてきました。もちろん、このプログラムで全ての課題を解決できるわけではありませんが、多くの学生にとって学びの第一歩を踏み出す重要な手がかりとなることは間違いない、と私たちは考えています。

私たちは、今後も継続的な学びの支援とメディアリテラシー教育の新しいアプローチを模索していきます。その一つとして、2024年秋、世界5カ国(インドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・台湾)から高校生・大学生たちを集めて、5000人規模の「ファクトチェック世界大会」を開催する予定です。入口は「楽しい」という理由でも、だんだんと自分なりの情報の向き合い方を見つけるきっかけになってほしいと願っています。

最後になりますが、私たちがめざしているのは、「市民一人ひとり自らが信頼できる情報を手に入れ、判断をできる世界」の実現です。インターネットの普及により、人々は膨大な数の情報に平等に触れるようになりました。その中にはもちろん、誤情報や悪意をもった偽情報も含まれます。こうしたフェイク情報がこの世から完全に無くなることはおそらくありません。しかし、誰もが自らの力で疑い、検証・判断する軸をもっていれば、怖いものはありません。そんな想いで少しずつですが、レイのブログを広めて参ります。

ご興味がある教育機関・企業の皆様は、ぜひ一度オンラインでのデモにご参加ください。

Classroom Adventureメンバー

Classroom Adventure

「ゲーミフィケーション」をテーマとして、学びを楽しくするクリエイティブファームです。教育域間や企業研修など幅広い分野で全く新しい学びを作っています。メディアリテラシープログラム“レイのブログ”は、2024年2月時点で、世界5カ国 (カナダ・インドネシア・日本・台湾・アメリカ) の学校で導入されています。

 

レイのブログ:

https://www.classroom-adventure.com/rays-blog-jpn


※写真は全て、Classroom Adventure提供